中編4
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動物園(潜罪)

※この投稿を読む前に…

 基本的にはこの投稿内で完結させたつもりですが

 過去の投稿作品である「動物園(怠惰)」を

 読んで頂いてから読むと一層楽しめると思います

私がこの動物園に来てから既に一か月が過ぎようとしていた

動物園といっても決して楽しい場所ではない

それは、私が飼育員として居るからというわけではなく

ここがまさに地獄というにふさわしい場所だからだ

それは比喩的な意味で地獄というのではない

文字通りここは地獄そのものなのである

もっとも、まだ私は良い方なのかもしれない

ここに動物としている人たちに比べたら…

ここに来た当初、私は混乱の極みにあった

そんな私にここの園長は懇切丁寧に、それこそ噛み砕くように

私が既に死んでいる事

ここが地獄である事を教えてくれた

しかし、何故か私がここに来てしまった理由だけは教えてくれなかった

「生きている間も知らない方がいい事はたくさんあったはずです

 そして、ここでもそういうことはあるんですよ」

とだけ言い、飼育員としてここで働くことだけを私に伝えた

その時、私は恥ずかしながら

動物としてここに来たのではないという事実を

ただただ、喜こんでいた

仕事の内容を知った時

私は吐き気を催した

この園内には恐ろしく大きな檻があった

大きいというのは縦にも、横にも、そして高さにもである

その檻は『鷲』というネームプレートが掲げられている

天井からは人間が吊るされているのだが

ただ吊るされているのではない

腹部に針のようなものを差し込み固定し

伸縮性のある縄のようなもので吊るされているのだ

吊るされている人は足首を切断されており

切断面からはみ出している骨は

細工されいるようでかぎ爪の様になっている

吊るされている人は必死に自らの体を揺さぶる

その度に伸縮性のある縄は伸び縮みし上下する

腹部に差し込まれている針はますます食い込むのだが

全く気になどしていない

どういう素材なのだろうか?

やがて縄は伸縮幅を大きくし、地面すれすれまで上下するようになる

地面にはまた別の人がいるのだが

吊るされている人は地面にいる人を捕まえようと必死である

なかなかうまくいかないのだが

たまにうまく捕まえられる時があると

その吊るされる人は上に引き上げられ

しばしの間、この罰から解放されることとなる

私の仕事は吊るされた人をしばしの間解放することと

こうして吊り上げられた人を再び地面に突き落とすことである

結構な高さなのだが、突き落とされても何故かその人が死ぬことはなかった

仕事をし始めの頃、私はそれを泣き喚きながら行っていた

しかし、段々と心は麻痺し、淡々と仕事をこなすようになった頃には

同じ仕事をする他の飼育員がそう表現するように

吊るされた人が地面の人を捕える事を

「釣る」

と表現するようになっていた

私は確認したい事があった

私はなぜこのような仕事を罰として行っているのだろうか?

心を麻痺させないとできないような仕事をさせられるほどの罪を

私は犯したのだろうか?

実は一つだけ心当たりがあった

私は、若いころある男と付き合っていた

男は社会的に認められていない組織に所属しており

少なくとも私にしてみたら

人様に胸を張って言えるようなことは何一つしていなかった

やがて、男はその組織で何か失敗をしたらしい

今思うと若気の至り以外なにものでもないのだが

私は、男と一緒に逃げた

逃亡生活の中

私は、外を歩けない彼に代わりに働いた

始めは仕方ないと思ったのだが

先の見えない生活に私の心はやがて、疲れ果てて行った

ちょうど今の様に…

ふと、彼を見たとき私はついにこの生活に終止符を打つことを決心した

男の堕落しきった顔が私にそうさせた

私は男が所属していた組織に私だけは許してもらう代わりに

自分たちの居場所を教えたのだ…

その後男がどうなったのかは知らないが

私は人生をやり直すことに成功し

人生の終わりの間際には家族に看取られながら死ぬという

ごく普通の人生を送ったのだ

一週間ほど前の事だ

私が担当して居た『鷲』がとんでもないものを釣り上げた

釣り上げられた男はもうすでに何十年もこの檻に居るようだった

顔にひどく精神を疲弊した様子があらわれている

しかし、男の見た目自体は若い頃のままだった

私がすぐに彼だと認識したぐらいに

それはまさにあの時の彼だったのだ

ここはそういう場所なのだろう

かくいう私もここに来た時から

彼と過ごしていたころの年代の姿でいた

「お前は…!!」

彼も私に気付いたようだ

「…久しぶりね」

私はやっとそれだけ言った

「ずっとお前に会いたかった…」

「そう」

私は短く答えた

死んでいた男の目に光が戻っていくのを感じた

そして睨みつけるようなまなざしで彼は私を見続けた

「ああ、本当に会いたかった」

彼の目がますます光った

あの時の彼の言葉が私を責める

今、私は自らの罪をはっきりと意識してしまっていた

おそらく、園長はあえてあの時私に罪のことを言わなかったのだろう

この地獄に慣れて来た頃

私が罪というものを最も感じるであろう

このタイミングで事実を知るように…

男はこう言ったのだ

「本当に会えてよかった!!

 もうどのぐらい時間がたったんだ?

 10年か?20年か?実は40年以上たっているのか?

 あの時お前に言えなかったことを言いたい

 

 すまなかった

 そして、あの時も今も俺はお前を愛している」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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