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中編4
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暗い小道で

わたしはいつも通学に自転車を使う。

学校から駅のある大通りまで行くと、一本外れた道に入って川沿いにしばらく行く。

そのまま川沿いを行っても家に帰れるが、わたしはいつも近道をするために横にそれて、その小道から帰っていた。

その日もそうだった。冬のにおいのする、空気の冷たい日だった。

部活の一日練習を終えた後で、重い足に鞭打ってペダルを押し押し帰っていた。

冷えて感覚のない指先と足先、マフラーをしていても制服の中に入ってくる風、顔面も冷たくて

早く帰りたいとばかり思っていた。

川沿いの道から小道の入り口にさしかかった。

その小道は、雑木林と庭の大きな古い空家に挟まれた細い道だった。

街灯が一本あるだけの暗い道。

いつも通り入って、気づいた。

街灯が切れかかっている。

パパッとついたり消えたりを繰り返し、時折ジーッと音を立てて中途半端な明るさになったりする。

それに合わせて、その道も明るく照らされたり真っ暗になったりしていた。

別に珍しいことではない。何となく不気味な雰囲気だなと思いながら、そのまま通ろうとして、また気付いた。

小道のちょうど中間地点、道の真ん中に何かがいる。

猫…?

ここら辺には野良猫がたくさん住みついていて、人懐こく寄ってくることがよくあった。

だが違う、猫よりもっと大きい。

ペダルを漕ぐ足がなんとなくゆっくりになる。

街灯の点滅でよく見えないので、気になって目を凝らしてみる。

街灯がジーッと音を出して中途半端な明かりが灯り、見えた。

それは四つん這いの何かだった。

違和感が恐怖に変わりつつあるのに気付かないふりをして、またペダルを漕ぐ足が遅くなった。

パッと一瞬明かりが付いて、また気付いた。

それは人だった。

四つん這いになってこっちを見ている女。

いや、人じゃない。

それには手も足もなかった。

両腕のひじから先がなく、両足のひざから下がない。

ひじとひざであるはずの部分はもぎ取られたように皮膚が変に伸びて血だらけだった。

その状態で四つん這いになっている。地面に血がベッタリとついていた。

顔は異様に大きくて肩幅とほぼ同じ大きさほどもあり、髪は地面に垂れて引きずるほど長い。

髪で顔は覆われているはずなのにこっちを見ているのが分かった。

その顔はニタニタと笑っていた。

ペダルはもう動いていなかった。

前に進むのは無理だ、だが後ろににげるにはアイツに背中を向けていかなければならない。

そんなことできなかった。

第一恐怖で全身が動かない。

街灯だけがチカッチカッと点滅を繰り返す。

パッと消えた。

また付いた。

そしてまたわたしは気付いた。

アイツが近付いている。

恐怖でひゅっとのどが鳴った。

またチカッと消えて、付いた。

アイツが近付いている。確実に。

頭が真っ白だった。でもわたしの気持をよそにまた街灯が消え、付いて

アイツが近付く。

もう6、7mしか距離がない。

だんだん何かが聞こえるようになってきた。

ズル、ズル、ズル、と音がする。

アイツのひじとひざにあたる部分が地面をこする音だった。

音は途切れずに近付いてくる。

ズル、ズル、ズル、

ズル、ズル、ズル、

近い。

街灯がチカッと消えて、付くたびにアイツの姿は近付いている。

しかし音がやむことはない。

ズル、ズル、ズル、

ズル、

街灯が消えた

ズル、ズル、ズル、ズル、ズル

音が目の前まで来ている

ズル、ズル、ズル、ズル、ズル

ズル、ズル、

足に何か触れた

ズ、

街灯が付いた

四つん這いの女が足元にいた。

髪の毛が足に触れている。

明らかにおかしい角度でその顔がこっちを見ていた。

四つん這いで頭を真上に向けている。

覆っていた髪が分かれて、目が見える。

血走った眼玉はあふれそうにせり出して見開かれていて、口からは血を流している。

血をゴボゴボと吐きながら女が一層ニタアッと笑った。

次の瞬間、サッと真顔になり言った

『おまえがかわれ』

わたしは気を失った。

気付くと小道の入り口に倒れていた。

小道を見やると、街灯が変わらずチカッチカッとしていた。

何かに気付く前に目を反らし、川沿いの道を必死に走って家に帰って布団を頭からかぶった。

もちろん眠れなかったが。

置きっぱなしの自転車が気にはなったけれど、怖くて近寄ることもできないので放っておいた。

それから2、3カ月が過ぎたころ、警察から電話がかかってきた。

わたしが自転車に貼っていた防犯登録のステッカー(車で言うナンバープレートみたいなもの)を見てかけてきたらしい。

取り行かずに済んでよかった、と安堵していると、警察の人がこんなことをいってきた。

「お怪我の方は大丈夫なんですか?」

何のことだろうと思って聞くと、その人はこういった。

「自転車に付いていた髪の毛と血の量にびっくりしましたよ。交通事故かと思ったんですが、あの細い道ですからねえ…」

END

怖い話投稿:ホラーテラー すぎしまさん  

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