実話です。文章にしたら大して怖くもなかったことが残念です。
今年の夏、信州のとあるホテルに嫁さんと泊った時のこと。
繁華街の中に紛れ込むように建っているそのホテルは増築を繰り返したせいか、
外からみても全体像が把握できないような不思議な形をしていた。
なんだか建物全体が歪んでいるような気持ち悪い印象を受けたのを覚えている。
地下の駐車場に車を停めて嫁とエレベータに乗り込んだ。
ロビーのある1Fのボタンを押して、エレベータは動きだしたのだが、
いつまで経っても1Fに着かない。
B1から1Fまでのたった1フロアの移動に3分くらいかかった。
ロビーに着いてそのことを従業員に話したが、エレベータは毎日従業員も使っているが
駐車場からロビーまで数秒で到着できているとのことだった。
まあその時には「ちょっと調子が悪かったのかな」くらいにしか思わなかった。
従業員に部屋まで案内してもらう最中に聞いたのだが、
もともとこのホテルはビジネスホテルとして営業していたものを観光客向けに改築したのだという。
現在は1Fを結婚式場、2Fを披露宴会場、3F以上を宿泊施設として利用しているらしい。
私たちは部屋に荷物を置いてベッドでくつろいでいたが、
その日の疲れもあってかいつのまにか眠ってしまった。
ふと気がついて部屋の時計を見てみると時刻は夜中の1時。
昼間大量に汗をかいたので風呂に入ろうと思い部屋にあった館内案内を見たところ2Fに大浴場があるらしい。
一人で行くのも心細いので嫁を起こして二人で向かった。
建物のつくりが複雑なせいか大浴場への行き方も少し面倒だった。
まずはエレベータで3Fに下り、そこから渡り廊下を渡って別館へ、
そしてさらに大浴場直通のエレベータを使って2Fへ下りて到着。
時間が時間だけに浴室には誰もいなかった。
大浴場と言っても洗い場が3つほどしかなく、
湯船も家庭のものを少し大きくした程度のものだった。
私はとりあえず髪の毛を洗いながら壁の向こうの女湯にいる嫁と会話していた。
ふと背後に気配を感じたので片目を開けて目の前の鏡を見てみた。
鏡には背後にある湯船が映っているのだが、
その端の方で何か白い布のようなものがヒラヒラしていた。
あれはなんだろう・・・と考えていたその瞬間―
「ぎゃぁあああああああああ」
突如女湯の方から悲鳴が上がった。嫁の声に間違いない。
私は急いで風呂場を飛び出した。
出口では素っ裸の嫁が半狂乱で引き戸を押していた。
事情を聴くのは後にしてとりあえず嫁に浴衣を着せて大浴場を出た。
大浴場専用のエレベータに二人で乗り込み3Fボタンを押す。
エレベータは少しの衝撃を伴って動き出したが、ここでまた嫁が悲鳴を上げた。
震える嫁が指差す先を見てみるとエレベータのドアに白い布が挟まっていた。
良く見てみるとそれはドレスの裾のようだ。
しかも地面から少し浮いた位置に挟まっている。
落ちていたものが偶然挟まったのではないことは明白だった。
このドアの向こうに誰かがいる。
…エレベータは動いているのに?
そう思った瞬間に情けないことに私も腰を抜かしてしまった。
いつまで経ってもエレベータは3Fに到着しない。
私たちはエレベータの中にへたり込んでドアに挟まった布を震えながら見ていた。
どれくらいの時間そうしていたのかはわからないが、
エレベータが目的の階に到着したことを知らせるチャイムが鳴った。
ドアが開く瞬間にはその向こうに見てはいけないものが見えるのではないかと恐怖したが、
開いたドアの向こうには薄暗い廊下が続いているだけだった。
私と嫁は必死で7Fの自室まで階段を駆け上がった。
もうエレベータを使用する気にはなれなかった。
自室に入りドアに鍵をかけ、泣きじゃくる嫁を抱えてベッドに向かった。
ベッドに向かう途中、部屋のユニットバスの中が視界に入った。
私は確かに見た。
真っ赤なドレスを着た首のない女の姿を。
私と嫁は布団をかぶって朝まで震えて過ごした。
後日嫁から風呂場で何を見たのかを聞いてみました。
あの時、嫁は私と話していたが途中で男湯の方から女の声がしたそうです。
「そっちに誰かいるの?」と声をかけてみたが私からの返答はなし。
不思議に思って脱衣所に出てみたら今自分が出てきた浴室に
純白のウエディングドレスを着た女が立っていたそうです。
嫁が見たのは白いドレス…
私が見たのは赤いドレス…
いったいなんだったのでしょう。
怖い話投稿:ホラーテラー すねやんさん
作者怖話