中編6
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山奥の民家

実話です。長くなってしまいました。

小学生の頃の話。

週末に私は友人のAと山に探検に行った。

いつもは数人の友達とつるんで遊んでいるが、

その日はみんな都合が悪く暇をしていたのは私とAだけだった。

その日は天気も良く、風も穏やかな日だったので室内で遊ぶにはもったいなかった。

「あいつらをびっくりさせるために秘密基地を探しに行こう!」

そんなAの提案に私も賛同し、山へ入ることになったのだ。

田舎育ちの子供たちにとって山は決して特別な遊び場ではなく、

近所の公園で遊ぶのとなんら変わりない気持ちで山道を登った。

林業の人たちのトラックが入るので林道は広く、

見通しも良いため何の不安も感じなかった。

「おい、こんなところに道があるぞ」

1時間ほど登ったところでAが声を上げた。

見てみると1メートル幅くらいの細い道が林道から林の中へと延びていた。

その道はクネクネと曲がっていて先は見えなく、私たちの好奇心は大いに掻き立てられた。

Aを先頭に小道を歩いて行くと何やら古い家が見えた。

あまり大きな家ではないが息苦しくなるような威圧感を感じた。

庭には荷車や農作業の道具がたくさん置かれていた。

こんなところに人が住んでいるのか?

不思議に思いながらも好奇心の塊である私たちは家の周りを散策した。

とくに変ったものはなく。古い藁やら干からびた野菜があっただけだった。

「なぁ、なんか臭くないか?」

Aが私に尋ねてきた。

たしかに私もこの変な臭いには気づいていた。

臭いはどうやら家の中から漂っているようだ。

私たちは臭いの出所を探って玄関の戸を開けた。鍵は掛かっていなかった。

戸をあけるとそこは薄暗い土間になっていた。広さは20畳くらいあった気がする。

土間の端には何かが山積みにされており、尋常ではない数のハエが発生していた。

「おぇ~、なんだこりゃ~」

Aが鼻をつまみながら臭いの発生源に近づいて行った。私も鼻をつまんで後を追った。

どうやらそれは猪やら鹿の皮を剥いだもののようだった。

生臭い血のにおいと肉の腐敗臭で頭がくらくらした。

やはりここには誰かが住んでいるようだ。

「もう帰ろう」と私がAの腕を引っ張ったそのとき外から物音がした。

私とAはとっさに身を低くして耳を澄ました。

だれかが小道をこちらに向かって歩いて来るようだ。

勝手に家に入り込んでいた私とAはパニックになった。

足音はどんどん近付いてくる。

Aはとっさに玄関脇にある浴室と思われる場所へ逃げ込んだ。

私は土間に面した居間にあるコタツのなかに逃げ込んだ。

「戸が開いとる・・・猿でも入ったかの」

しばらくすると私たちが開けた戸から誰かが入ってきた。

外からの光を背にしているので顔は見えなかったが、大柄な50歳くらいの男だった。

男は土間を通ってまっすぐ私のいる居間に向かってきた。

コタツの中に隠れている私の心臓は破裂しそうなほどに鐘を打っている。

しかし、男は居間には上がらずに持っていた荷物をコタツの前に置いて土間に戻っていった。

猟銃と血塗りの鉈(ナタ)だった。

男は土間に積まれている肉の山に近づくとその中の一体の足を持って引きちぎった。

ブチブチと嫌な音が居間まで響いて私の恐怖を煽った。

こんなところ入るんじゃなかった。私は心のそこから後悔したが遅すぎた。

私はコタツの隙間から男の様子を窺った。

男は鹿だか猪だかから引きちぎった足をそのまま食べていた。

クリスマスに食べるローストチキンみたいに。

一口食べるたびに男の足元に血がしたたり落ちる。

あまりに気味の悪い光景に私は恐怖のあまりコタツの中で失禁した。

そのとき私は大変なことに気づいた。

私が居る居間は玄関とは土間を挟んで対面に位置している。

つまり私が隠れている土間からはAが隠れた玄関脇の浴室の扉が見えるのである。

浴室の扉はすりガラスになっているので中のシルエットは見える。

Aはそのすりガラスに寄りかかる形で隠れていたのである。

Aのシルエットは居間に居る私から丸見え。

もちろん土間に居る男からも見えてしまうのは間違いない。

どうしよう。どうしよう。

考えても考えても解決策は思い浮かばなかった。

「あ~、小便、小便」

誰にともなく言葉を発して男はこちらに近づいてくる。

小便?トイレ?トイレはどこにあるんだ??

私はコタツの隙間から見えるわずかな視野に目を凝らした。

浴室のドアの横にもう一つドアがある。

ドアに小さな小窓がついたデザインだ。あそこがトイレで間違いないだろう。

男は私が覗いているコタツの隙間のすぐ前に食べかけの生肉を置いた。臭いは半端じゃない。

そして男はトイレのほうを振り返った。

私が見ているのとほぼ同じ景色を男が見てしまった。

・・・

男の動きが止まり、沈黙があった。

私は自分の心臓の音が聞こえてしまうのではないかと胸を手で押さえた。

「おったぞぅ」

腹に響くような低い低い男の声が部屋に響いた。

Aが見つかった・・・

男はもう一度居間を振り返るとコタツの前に置いた猟銃を手に取った。

私は焦った。この男はAを猿だと勘違いしているのではないか。

このままではAが撃ち殺されてしまう。

男は猟銃に弾をこめながらゆっくりと浴室に近づいている。

私は意を決してコタツから飛び出した。

「勝手に家に入ってゴメンナサイ!」

男の背中に向かって力いっぱい叫んだ。

男は動かない。

「そいつは僕の友達です。猿じゃないです!」

私の声に反応したのか浴室のドアが少し開いてAが顔を出した。

また沈黙があった。

私とAはこの男に怒られるだろう。

もしかしたら親に連絡されるかもしれない。

それでもこの不気味な空間にこれ以上とどまっているよりはましだと思った。

そう思っていた。

しばらくして男がゆっくりと私のほうを振り返った。

「人間の肉はごちそうだ」

あのときの男のニヤついた顔は今でも忘れることができない。

猟銃の銃口が私に向けられた。

予想外の事態に私は動くことができなかった。

俺死ぬんだ・・・

10年しか生きてないけど、いろんな光景がフラッシュバックした。

しかし銃弾は放たれなかった。

Aが浴室から飛び出て逃たのだ。

男がAに気をとられて私に背を向けた。

私は足元に置かれていた鉈を男に投げつけた。

あいにく鉈は男には当たらなかったが、男の持っていた銃に当たった。

私は銃を拾っている男に体当たりしてから全速力で土間を駆け抜けた。

男が何か怒鳴っている。

何度も転びそうになったがなんとか走り続けた。

背後で銃声がした。

散弾のいくつかが左手首に突き刺さり、薬指の爪がちぎれ飛んだ。

それでも走り続けた。

遥か前方にはAの後姿も見えた。

林道までたどり着いてもさらに走り続けた。

しばらく走ると伐採した木を運んでいるトラックがあった。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔と私の血まみれの手をみて

林業のおっさんは急いで私たちを病院まで送ってくれた。

子供が猟銃で狙撃されたということで、この事件はニュースになった。

その後に警察が例の家を捜索したが、男は見つからなかったらしい。

そもそもあの家は十年ほど前から空き家になっていたようだ。

結局、頭のおかしな浮浪者が住み着いていたのだろうということで親からは山で遊ぶことを禁止された。

この事件は私のトラウマになった。

いまだに生肉を見るだけで手が震える。

怖い話投稿:ホラーテラー すねやんさん  

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