俺が高校の頃の話。
秋頃、友人のMが悩みでもあるのか元気がない様子だった。
「絶対笑うなよ」と前置きして話し出した。
「…家に幽霊が出る」
話し終わらぬうちに俺達は笑ってしまった。
「幽霊?幽霊なんているわけないじゃん(笑)」
笑ってしまった流れか何故かMの家に泊まり幽霊を見るという展開に…。
Mは笑われたことで気が進まないようだったが、他の人間が幽霊を確認するってのには賛成だった。
Mの体験とは…―
一週間ほど前、家族が寝静まった深夜。
そろそろ寝ようかと思い、Mは寝る前にトイレに行こうと1階へ下りた。
用を足し終え、トイレから出ると電気の点いてた廊下が真っ暗。
トイレの中の電気だけが廊下を照らしていた。廊下の明かりのスイッチを切り換えるが反応なし。
「電球が切れたのか」とMは思ったらしい。
仕方がないので、暗い中を手探りで部屋まで帰ることにした。
トイレの電気は点けたまま。
それでも廊下の先は暗かった。
目は慣れてないが、勝手のわかった自分の家なので問題なく階段まで辿り着いた。
しかし階段は真っ暗。
「2階の廊下の電気も点けとけば良かった…」Mは後悔した。
ギッギッギッ……。階段を上る足音がやけに大きく聞こえる。
ギッギッギッ……。さらに上る。自分の部屋の灯りが見えてきた。
階段を半分ほど上ったところで突然、背後の1階の廊下の電気が点いた。
驚いて振り返るM。
すると、階段の上り口の所に男が階段側を向いて立っていた。
一瞬父親かと思ったらしいが、父親は夜勤で家には母親とMだけだったらしい。
男は短い髪にグレーっぽいスーツ姿だったらしい。俯いていて顔はよく分からない。Mは驚きで動けなかった。
そして男はゆっくりと足を上げると階段を一歩上った…。
―そして…
気が付いた時、Mは自分の部屋のベッドで目を覚ましたらしい。
俺達は「夢じゃないのか?」と突っ込んだんだが、母親に電気の点けっぱなしを注意されたことで夢ではないと確信したとのこと。
Mはそれ以後、夢にまでその男を見るという。
あの男が階段の下で自分の部屋をジッと見ている…。
あの男が一段ずつ階段を上って自分の部屋まで来てる…。
そういう想像まで膨らませていた。
「あれから夜中にトイレなんかとてもじゃないが行けない。学校の階段でも、下に人がいたらビクついてしまうくらい…」
Mはかなりビビッていた。
俺達はMのその話に盛り上がってしまい、ノリノリだった。
その週の土曜日、Mの家に泊まりに行くことに即決した。
土曜日は雨だった。
しかも台風接近中。
それでもM宅への訪問は決行された。
夕方にM宅に集合。
面子は俺とAとF、そしてM。
夕飯をご馳走になって深夜までゲームをしたりして時間を潰した。
Mの家族(父親も居た)が寝静まると作戦開始。一人ずつトイレに行って帰って来る。
「奴」が出やすいように1階の電気は使用不可というルールになった。
クジによる順番決め。
A→F→俺という順番になった。
Mは断固として拒否。そのMの態度にちょっと怖くなる俺。どこかでMの話を疑っていた俺だが、雰囲気でMは嘘はついていないと思った。
まずAが行き、帰って来る。
「何も出んわ」と笑っていたが、やや引きつり気味の顔だった。
次はF。
帰りが遅い…と心配になった頃に帰ってきた。
「糞してた」とか抜かしやがる。
Mはその間、怖さを紛らわすためかずっとゲームを続けていた。
我関せず、といった感じだった。
俺の番が来た。
暗い廊下に出てた。階段は少し急なため慎重に下りた。話の通り、ギッギッと音がする階段。
階段を下りて、右手に曲がりトイレへ。トイレの電気は点けっぱなしだった。Fが気を利かせてくれたのか、ただ単に消さなかったのか。何にしても灯りがあるとホッとした。
用を足さず2、3分ほどしてトイレから出た。
2階に居る時はあまり気にならなかったが、台風が近いせいで雨の音が結構大きく聞こえる。
トイレから出た後、正直言うと怖かった。
怖い話が好きな俺はこういう時に妙に想像力が膨らますてしまう。
暗い廊下の先にスーツ姿の男が見えるような気までした。
やや早足で階段へ向かう。
階段を上る。
暗い上に慣れない急な階段のせいで早くは上れない。
後ろを振り返りたい衝動に駆られたが、本当に男がいたらと思うと振り返れなかった。
Mが言っていた階段の半分辺りまでやっと辿り着いたその時。
…後ろに人の気配がする…
すると、背後の1階の廊下の電気が点いた。
「!!!」
思わず振り返る。
男がいた。
スーツ姿で俯いている。
おまけに1階の電気がバチバチと激しく明滅し始めた。
情けないことに一瞬でパニックに陥った。
階下の方を向いたまま階段を上ろうとした。
すると、男は四つん這いになり、階段を駆け上がって来た。
明滅する灯りの中、コマ送りで近寄ってくるように見える男。
アッという間に男は迫ってきた。
俺は声も出なかった。
男は俺に顔を寄せると、ニヤッと笑い「ビビッたか?」と言った。
………男は背広だけを着たFだった………。
不覚にも腰が抜けた。
Fが男役でAが電気を点ける役。
前もって決めてたらしい。
俺がトイレに行っている間に1階の奥に移動したらしい。クジまで細工するという周到ぶり。
MもMで黙認してるし…。
俺は安堵でコイツらを怒る気もしなかったヘタレです。
…その後
Mは元気になったが、Mの体験が何だったのか。
Mに聞くと、マジ話と言うが、あんな思いさせられたせいか半信半疑。
きっと夢だったんだろうなと自分の中で勝手に消化。
最後辺り簡潔になってしまいましたが、情けなくて俺的には洒落にならない話でした。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話