前回投稿した「鏡の中に」の完全版です。
初めて読む方は(1)から、前作を読んでくださった方は(1)を飛ばして(2)からお読み下さい
(1)
「ねぇ、知ってる?この学校に幽霊がでるんだって。」
「はいっ?」
オカルト好きの友人Aがこんなふうに話しかけてきたのは、授業が終わり帰り仕度を始めていたときだった。
「昨日、先輩から聞いた話なんだけどさ、北校舎にトイレあんじゃんか?先輩がこの前部活帰りにそこのトイレにいったら髪の長い女が鏡越しに睨んでくるのを見たんだって。先輩、ビビって逃げたんだってよ。」
「はぁっ?どこの変質者だよ。ってか、先輩だせぇ~(笑)」
うちの学校は東京有数の私立の男子校であり、女の影もないような場所である。もともと幽霊を信じてなかった俺は、誰かの保護者が迷い込んだぐらいにしか思わなかった。
「俺も作り話かと思ったんだけど、先輩の様子が少し変なんだよ。やけに疲れてる感じだし、いつもまわりを気にしてるし。どうせお前、今日暇だろ?一緒に調査しね?」
俺は幽霊を信じてなかったし、もしほんとに居たとしてもなぜ自分から厄介ごとに首を突っ込むのか理解出来なかったが、怖がってると思われるのもしゃくだったので、見るぐらいなら、っと付いて行った。
俺たちが北校舎のトイレへ向かったのは午後の6時。Aが雰囲気が出るからといい、それまでモンハンで時間を潰していた。
もともと北校舎は実習系の授業の時に使うだけでほとんど誰も来ない。まわりはもうすでに暗く、トイレの入り口はそれなりのふんいきを漂わせていた。
俺とAがトイレの入り口にたつ。中は電気が消えていて薄暗い。電気をつけると右手に個室、奥に便所、そして右手に大きな鏡が確認出来た。その場の雰囲気に呑まれながらも、俺はAを置いて先にトイレのなかに入り、鏡にむかいあった。
(2)
少し青白い顔をした俺が鏡の奥から見つめ返してくる。鏡に映る4つの個室のドアは全て開いていて、なんの異常もない。少なからずともびびってた俺は、安堵の情がこみあげてきて、思わず笑いだしながら言った。
「幽霊なんていねーじゃねぇかよ……?!」
Aがいない!何かの悪ふざけか?心臓がバクバクと音を鳴らし始める。
パニクった俺がもう一度鏡をみると、2番目の個室にAが映りこんでいる。
Aは鏡越しにただ無機質な表情でじっと俺を見つめる
(いつのまに?音なんかしなかったぞ?)
「おい、悪ふざけもいい加減に…。」
振り返った俺は言葉を失った。Aが立っていたハズのそこには、真っ赤な服を着た女が物凄い形相でこちらを睨みながら立っていたのだ。
おもわず後ずさると、背中に何かが触れた。手だ。鏡から女の手が伸びでてきている。鏡越しに女はすぐそばまで迫ってきていたのだ。その女は肌が異常に白く、そのためか赤い服と充血した目の赤がよくはえている。ニタァーっと笑うと女は信じられないほど強い力で腕を握ってきた。
女の爪が腕に食い込み、女の白い手に俺の赤い血がかすかに滲む。呼吸が苦しなり、頭の中が真っ白になると、俺は気を失った。
気がつくと俺は保健室に寝ていた。トイレで気絶しているところを巡回していた教師に助けられたらしい。
翌日Aに話を聞いたところ、Aは昨日俺に話かけた覚えもなければ、幽霊にあった先輩の話というのも聞いたこともなかったそうだ。
結局、あの日の出来事が本当におこったことなのか、また本当のことだとしたら、何故女が俺を呼び寄せたのかは謎のままである。
ただ一つ、まだ消えぬうでの痛みだけが俺にとってのリアルである。
怖い話投稿:ホラーテラー ひとでなしさん
作者怖話