私が小学校の低学年の頃、うちの学校区でひっそりと流行った噂があった。
噂はたわいもない。学校区にあるスーパーの裏手の小さな公園に「真っ赤ババァ」がでる。という噂である。
真っ赤ババァとは年がら年中、真っ赤なコートと赤い手袋をして、真っ黒でストレートの黒髪をしたおばさんのことである。
噂では持っているスーパーの袋の中は生肉でいっぱいで、生臭く。ひとりで遊んでいると真っ赤ババァに生肉にされるとか。されないとか。
その日も昨日、真っ赤ババァが出たとクラスで騒いでいると、友達のSちゃんが暗い顔をしてやってきた。Sちゃんは騒ぎを横目に、「トイレに行こうよ」と朝っぱらからうるさいクラスを私たちは後にした。
トイレにつくと暗い顔をしてSちゃんはこそこそと話し始めた。
「あのね。真っ赤ババァって。あたしのお母さんかもしれない」
「は?」
突然のカミングアウトに戸惑ったが、Sちゃんもお母さんもうらやましくなるくらい黒髪でストレート。物静かだが、いつも手製のお菓子や晩御飯ごちそうしてくれるSちゃんのお母さんはそういえば、赤いコートを持っている。年がら年中着てはいないけどもしかしたら、一度見た誰かが流した噂かもしれない。
「ほんとに?」
「うん。昨日あそこのスーパーいったらしいし。家って公園を横切ってグリーンロード(うちの地方限定?歩行者専用の狭い道。道が緑色に塗られていたのでそう呼ばれてた)のほうに歩いて行ったほうが早いでしょ?」
まさか、友達のお母さんが妖怪?だったんて・・・と戸惑いながら
「どうしようか?」と聞いてくるSちゃん。
私もSちゃんも正直根暗で、明るい性格ではない。おおっぴらに「(Sちゃんの)お母さんは真っ赤ババァなんだよ」と言う度胸はない。
「とにかく、お母さんに赤い服着るのやめてもらえば?あ!流行りとか言って髪型を変えてもらうとか?」と子供ながらに思いつくことを話しながらSちゃんは、深刻な顔でうんうんとうなずいていた。
さて、カミングアウトの帰り道。いつものように一緒に歩いていると、Sちゃんは突然歩みを止めた。
「ごめん!!あそこの公園に行ってもいいかな?たぶん。お母さん昨日買い忘れがあったって今日も買いに行くと思うの」
内心「一緒に行くのいやだな」と思いながら、断る勇気もない私は、公園へと寄り道をした。
公園に行くと、誰も遊んでいなかった。これ幸いと私たちはしばらく公園で遊んで、Sちゃんのお母さんが来るのを待った。しばらく、鉄棒で遊んでいるとSちゃんが固まっていた。視線のほうを見ると「真っ赤ババァ」ことSちゃんのお母さんがスーパーの袋を提げてこちらにやって来た。
「お母さん!!」
Sちゃんと私はランドセルを手に持って駆け寄った。
でも変だった。Sちゃんのお母さんは娘が目の前にいるのに声を上げないし、Sちゃんのお母さんはびっくりするぐらい生臭い。しかも、近づくとわかったが、手が傷だらけで真っ赤な手袋をしているように見えた。これはヤバイ。と二人で駆け寄るのをやめて立ちつくした。
真っ赤ババァはゆっくりとこちらに近づいてきた。
「違う!!」
Sちゃんの一言で私たちはUターンで逃げた。
逃げると、真っ赤ババァが笑いながら追いかけてきた。カサカサとスーパーの袋の音と足音がするを今でも覚えている。
本当にビビって、私たちはランドセルを捨てて、グリーンロードに逃げ込み、そのまま走って、Sちゃんの家に逃げ込んだ。
Sちゃんの家に逃げ込むと、Sちゃんのお母さんはすでにスーパーに行っていたらしく机の上に袋が乗っていた。
Sちゃんのお母さんに「公園で遊んでいたら変な人に追いかけられてランドセルを置いてきた」とだけ話(真っ赤ババァと間違えたとは一生言えない)
Sちゃんのお母さん同伴でランドセルを公園に取りに行った。ランドセルは砂にまみれて公園の真ん中に転がっていた。
Sちゃんが中をあけると中が、カッターか何かでずたずたにされており、中には血がたまっていた。
Sちゃんのお母さんはここでヤバイと判断し学校に連絡。
道草を食った私たちは叱ら、PTA同伴の集団下校がしばらく続いた。
後日談だが、あの時、私のランドセルは無傷だった。
無傷ではあったが、算数のノートの一番最後に
「かわいいおともだち」
と血文字で書かれていたの今だにSちゃんには言っていない。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話