私はもう…止まらない。
あれから半年が経って、いまなお続く地球外生命体の侵攻。
半年前のヨハネスブルクの大戦で私は傷つき、一度は死を覚悟した。
気が付くと、私は日本という島国に流れ着いていた。
島国の人々は私を介抱し、温かい味噌汁と白米、脂の乗った塩鮭、新鮮な海苔と昔ながらのおふくろ味のきんぴらゴボウ、裏の物置で漬け込んだたくあんをご馳走してくれた。
その食事を食べていると私の目から雫が零れ落ちた。
それが何か無知な私には理解出来なかった。
病かとさえ疑い、取り乱す私に島民の娘は優しく雫を拭い、「それは涙と言うものです」と言った。
涙。
文献で確かに昔読んだ事があった。
人の感情が昂った時に起こる生理現象。
私は驚きからか、私が涙等流すわけがないと娘を罵倒した。
娘は困惑した。
私は赤子同然だった。
だからその様子にとても満足した。
私をもっと畏れろと、私は人を超えたと告げた。
だが娘の怯えた顔は微笑みに変わった。
「はいはい、分かりましたよ」と。
まるで子供をあやすように家の奥に入っていった。
他の島民も同じだった。
私がいくら脅かしても笑って流すだけだった。
ある日、ぶらぶらしているだけでは迷惑だと、娘に畑仕事に連れていかれた。
私は困惑し、反対した。
だが娘の強引さに、結局歯向かうことは出来なかった。
困った顔をするのは私ばかりだった。
そんな日々が続いた。
いつのまにか、私は島民と娘といる事が喜びに変わっていた。
私は生まれて初めて、人に腹を立て、涙を流した。
そして、良く笑う様になった。
私はあろう事か、この時間が永遠でもいいと思ってしまっていた。
しかし、傷は待ってくれずあっという間に完治してしまった。
もうここに居るわけにはいかなくなった。
私は島民達にヨハネスブルクに戻る事を伝えた。
島民達は渋々と納得してくれた。
だが、娘の反応は違かった。
私と娘が出会った時とは逆に、今度は娘が泣いていた。
馬鹿と、阿呆と罵られたのも私の方だった。
最後には出ていけと言われて、仕方なく私は村を出た。
涙ってものは、今も何故出るかは分からなかった。
私は何故かため息をついた。
村を出て暫く歩くと、空が赤くなる。
村が燃えている。
私はこれまでの鍛錬で培った全て筋力を駆使し、電光石火で村に駆け戻った。
村は奴らに襲われ、真っ赤な火に包まれていた。
人々が逃げ惑う中、私は娘を探した。
何度も何度も娘の名を呼んだ。
しかし、娘からの返事はなかった。
娘の生存を私が絶望しその場でへたり込んだ時だった。
私の名を呼ぶ、小さな娘の声。
私は声の方に駆け寄る。
娘は家の裏で倒れていた。
私は慌てて娘を抱き抱える。
私がすまんと何度も言うと、娘も大丈夫よと何度も返してくれた。
だが、医術に詳しくない、わたしから観ても娘の腹部からの出血量は致命的だとわかった。
娘の呼吸は次第に弱くなって行った。
娘は事切れる間際、私に向けて初めてあった時と同じ微笑みすると、ありがとうといって目を閉じた。
また、雫が零れ娘の顔に落ちる。
涙の意味がその時に漸くわかった気がした。
私は娘をゆっくりと地面に降ろし、立ち上がる。
私こそ、ありがとう
そう言って私はまた、ヨハネスブルクに向けて走り始める。
涙はまだとまらない。
いや止めたくないのだ。
体が軽い。
いまなら、もっと速く走れる気がする。
綺麗なストライド。
もっと速く、もっと。
体が軽い。
地面を強く蹴る。
酸素を
二酸化炭素を
今なら蹴れる。
全ての元素を。
全ての原理を。
行こう、
宇宙の起源まで。
怖い話投稿:ホラーテラー サイコ男さん
作者怖話