コピペです
О君は小学生の頃、野球選手に憧れていた。
Jリーグが発足した年ということで、周り皆はサッカーばかり。
キャッチボールすら付き合ってはくれなかった。
「壁ばかりを相手にしてると、息が詰まってしまって・・・」
何かないかとうろついたО君は、いつも行く河原の近くに格好の練習場を見つけた。
人通りも稀な道路に面する朽ち果てた平屋だ。
赤いストレート葺きの屋根に向けて軟球を投げ、転がってくるのをキャッチするという練習だ。
下からは見えない為、音だけで判断しなくてはならない。
それが堪らなく面白く、О君は時を忘れてボールを投げ続けた。
黄昏が迫る頃、さすがに疲れたО君は、最後の一球を投げた。
ゴロゴロゴロ。
途中でピタリと音が止まった。
何に引っ掛かったのか調べようとしたが、背伸びしたぐらいで見える筈もない。
О君は道路の端により、屋根を見た。
ボールはあった。
О君と同じく、小学生くらいの男の子が掴んでいる。
驚いたことに、この寒空に素っ裸だ。
声をかけようとして思いとどまった。
あの子、何処から上がったんだろう。
梯子らしきものは見えないし、大きな木もない。
何より、ストレート葺きの屋根なのに足音すら聞こえなかった。
身体が震えるのに目が離せない。
О君は後ろ向きのまま少し離れ、一目散に逃げ帰った。
買ったばかりのボールは惜しかったが、その家には二度と近づかなかったそうだ。
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中学、高校と進学してもО君は意識してその方角を避け続けたが、故郷を出て都会で暮らし始める頃には、すっかり忘れていた。
「去年の夏に帰省したとき、偶然その前を通ったんです。」
10年以上が経ち、尚一層古びて今にも倒れそうであったが、家は依然としてあった。
あの頃、遥か上にあった屋根は、手を伸ばせば届きそうな位置にある。
赤い屋根を目にした途端、記憶がまざまざと蘇った。
あの子、何だったのかな。
О君は、ふっと笑うと屋根に向かって呟いた。
「ボール返してよ。」
ゴロゴロゴロ
懐かしい音を立てながら、ボールが落ちてきた。
まさか。
震える手で拾って調べてみる。
かなり汚れていたが間違いなく自分のボールだ。
擦れてはいるが名前も残っている。
О君はボールを握ったまま、上をみた・・・
屋根の端から、あのときの男の子が覗きこんでいたという。
(終)
怖い話投稿:ホラーテラー ストレンジカメレオンさん
作者怖話