私が小学二年生の頃だったので、だいたい10年前の話になります。
私の母は、いわゆる見える人です。
しかし力が弱いのか、見える頻度はふた月に一度ほどで、かなり低いです。
それでも時々、何もない場所を避けたり、何かに驚いて立ち止まる母を見ると、私自身も怖くなります。
当時、私たちには、通ってはいけない場所がいくつかありました。
それは、ある道の間に立っている、短いポールの間です。歩道に車が入らないようにと立ててあるもので、誰でも一度は見たことがあると思います。
通ってはいけない場所のポールは、茶色に黄色の反射プレートがついているタイプのもので、二本立っているポールの真ん中でした。
母はそこを見て、通ってはいけない、と私と父に言いました。何か悪いものがあるから、と。
しかし私にはそれが見えないので、しつこく母に詳細を尋ねました。
母が話してくれたのは、以下の内容です。
・なにかぼんやりと線が見える。
・それは白っぽくて、ちょうどゴールテープのような感じ。
・だけど、なんだかすごくいやな感じがするから、避けるほうがいい。
私は母の言い付けを忠実に守っていました。
10年経った今でも守っています。
でも、一度だけ破ったことがありました。
その年の冬です。
母と些細なことで喧嘩してしまい、私は早足で母の前を歩いていました。後ろからは母の制止の言葉が飛んできましたが、無視しました。
そこで、あの通ってはいけない場所に来たのです。
母が後ろから避けなさい、と叫びましたが、怒っていた私はそれに反発して、そこを突っ切りました。
違和感はありませんでした。さして変わらない、普通の道でした。
母の言ったことは嘘だった、とさらに怒りが増した程度です。
でも、異変はその夜に起きました。
大好きなアイスを食べた後、急に身体が熱くなり、汗が吹き出し、尋常ではない頭痛を覚えたのです。立っていられないほどでした。
私は膝をついて苦しみました。しゃがみこむだけでは身体のバランスが崩れそうだったからです。
すると、何故か風呂場にいた母があわてて走ってきました。今思えば、何故私の体調の変化が分かったのか、とても不思議です。
私を見た母は、これまた何故か鍋の蓋を持ってきて、私の背中を擦りました。正確には、ゴミを払うような感じで撫でた、と言ったほうがいいかもしれません。
そのとき何事かつぶやいていたようにも聞こえましたが、詳しく覚えていません。ごめんなさい。
しかし、それでも私の身体の熱さは取れませんでした。
母は急いで私を抱え、車に乗せ、病院へと運んでいきました。
……私の症状はインフルエンザでした。医者の見立てでは、直前に食べたアイスに当たったのだろうということです。そんなに早く症状が出るのか疑問でしたが……。
ですが、私にはどちらが原因なのか、はっきり分かりませんでした。
病気は一週間ほどで治りました。
以上で話は終了です。
あれ以来、私はあそこを通らないようにしています。
一度、父が誤ってそこを通って会社に行ってしまいましたが、その夜に右手の小指を骨折して帰ってきた以外は、異常ありませんでした。
少しタイミングが良すぎるのは気になりましたが、母は何も気付かなかったので、多分大丈夫なのだと思います。
みなさんも無闇に電柱の影などは通らないほうがいいかもしれません。
長文失礼しました。
怖い話投稿:ホラーテラー 葱子さん
作者怖話