今から10年近く前の話。
近所で独り暮らしをしていたお婆さんが娘夫婦に引き取られるだかで地方へ引っ越すことになった。
元気で明るいお婆さんだったけど、急に体調を崩した為らしい。
その引っ越しの手伝いに当時高校1年だった俺と、友達の何人かが加わった。
古い家で家財もあまりなかったので比較的楽な作業だった。
布団などは古くて捨てていいとのことだったので、押し入れの中から布団一式と座布団なんかを出していた時、押し入れの天井に屋根裏に続く小さな扉があるのに気付いた。
現場にいた大人に屋根裏は見るべきか聞いてみると、婆さんの私物があったらとりあえず下ろしておいてくれと頼まれた。
屋根裏は埃っぽくカビ臭かった。頭だけ覗かせて見回したところ、特に何もない。
が、一つの角が板で塞がれているのが見えた。
床から天井までを、1枚の板が打ち付けてあるような感じで、何かその奥にあるものを隠しているような印象を受けた。
一旦戻って近くで作業をしていた友達に報告すると、それは見てみようということになった。
「勝手に板取って大丈夫かな」
「どうせ取り壊す家だから大丈夫だろ。もし何か出てきたら報告しよう」
「お宝があったりしてな」
なんて会話をしながら俺と友達2人で屋根裏に上がった。
薄暗い屋根裏。
3人がかりで板を外す為、板と壁の僅かな隙間に手をかけた。
頑丈に打ち付けてあると思った板だったが、なんてことはない、ただ角にはめてあるだけだった。
板は簡単に外れたが、その瞬間、俺達は悲鳴を上げた。
板を外して露になった角に、学生服を着た男がじっと座っていたのだ。
学ランと学生帽姿の男が、体育座りのような格好でそこにいた。
突然のことに、うおぉとかぎゃあとか待てコラとか叫びながら俺達は慌てて屋根裏から逃げ出した。
驚いている大人達に事情を説明し、今度は大人達が屋根裏を見に行くことになった。
怖くて仕方なかったが、生まれて初めて見た幽霊(らしきもの)にいくらか興奮もしていた。
「見た!」「見たよな!」俺達はしばらくそれしか言えなかった。
しばらくして屋根裏に行った大人達が戻ってきて言った。
「あれは人形だよ」
拍子抜けした。
なんだ、ただの人形だったのかと。
だが、一体なぜあんな人形が屋根裏に?
わざわざ板で隠してまで?
疑問を口にすると、大人達の中で一番の年長者である人が教えてくれた。
戦時中の話だった。
徴兵制度で息子を兵隊に送らなければいけない母親の中には、屋根裏や蔵などに息子を隠す者もいたらしい。
少しでも僅かな可能性を信じて。暗い屋根裏の中。板で隠して。
当然そんな工作が通るはずなく、息子達は見つかって皆兵隊として連れて行かれた。
当時の俺や友達と同い年くらいの、たくさんの学生が戦場に送られた。国の為に死ぬことを正義とされて。
お婆さんの息子もそうだった。
俺なんかじゃ想像もつかないような悲しみだったと思う。
息子を奪われたお婆さんの中で何かが壊れてしまったのだろうか、息子そっくりの人形を作って、今の今まで屋根裏に隠していたのだ。
屋根裏から下ろされた「彼」は、明るい場所で見ると一目で布製の人形と分かるような作りだった。
目も鼻も口も、お婆さんの手書きなんだろう。
学生服を着た彼の目は、ひどく悲しげだった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話