私が某クリーニング店で正社員をしていた頃の話。
仕事先で異動になった店舗は、よく言われる『霊道』があるらしい。
霊感の無かった私でも、『あの店は霊道が通っていてね…』などと言われると、さすがに行きたくなくなるものだ。
オマケに店の2階には、何故かシャワー室が有るらしいのだが、何十年も使われておらず、南京錠がかかっているだけで、中が少し見えるとの事…
そんな事聞かされると、益々行きたく無くなってしまうが、仕事なので仕方が無い。
私が完全に店を任される迄、前任者との引き継ぎで、当分の間は前任者と時間が重なる勤務をしていた。
この店自体は初めてだが、業務内容は他の店と何ら違いは無く、直ぐに対応出来、お客様が来られたら私は直ぐさまカウンターに出て、クリーニング品の受け付けを行った。
次は受け渡しだ。
と思った瞬間、私の斜め後ろに、前任者程の黒い人影が通るのを見て、渡す品物を持って来てくれるのだとおもったが、一向に現れないので、私は奥にはいって、お渡し品を取り出して、お客様と確認の後、無事、一連の作業を終えた。
暫くすると、2階から前任者が、お客様からお預かりしている布団や毛布を持って降りて来た。
『Kサン…いつから2階に居ました…?』
『Nちゃんがカウンターに出る時に2階に上がったよ…?』
『Kサン…1回でも降りて来ました?』
『うぅん、全然』
『………私…さっき、この筋でKサンぐらいの人影をハッキリ見たんですけど…』
『あぁ、この筋ね。よく居るよ。この筋が霊道だから。』
…なんてアッサリ…
『Kサン、何回も見た事って…』
『あるある。この霊道は店の入口側は黒い物体しか見えないけど、奥に行けば、足だけのヤツとかみえるよ』
『Σそんなサラっと言わないで下さい』
『あぁ、そうそう、2時階だけは気をつけな。私(Kサン)の前任の社員さんは、2階が相当ヤバイって言っていて、お札は貼ったけど、近付くんじゃないよって』
それから数日後、Kサンからの引き継ぎは完了し、店は私とアルバイトのOサンの二人だけとなった。
相変わらず一つの筋にだけ現れる黒い影。でもそれは一体だけでは無くなって来ていた。
アルバイトのOサンも何体か見ていた。
『もー…ホント勘弁して下さい』
とある日、店の閉店間際に二人で話していると、店の奥の2階に続く階段から、何やら音が聞こえた。
「ダン・ダン・ダン…」
『え…!?』
『何ですかー、今の!!Nサン聞こえました!!?』
『…聞こえた…違う違う、気のせい・気のせい…』
『嘘ーっ!!だって何か足音みたいなのが…2階に上がって行きましたよー!!!』
Oサンは半分パニックになっていた。
私だって実際は心臓がバクバクです。
でもとりあえず、早く帰りたかったので
『Oちゃん、早く。私、レジ閉めするから、日報だけ支店にFAXしといて。』
と言うと、二人で大慌てで片付け、着替えました。
するとまた
「ダン…ダン…ダン…」
今度は2階から下に降りて来る足音です。
『来た…』
私が思わずそう口にすると
『来たって何がですか!!?ちょ、電気とセキュリティ、階段の下まで行くんですよ!!?怖い事言わないで下さい!!!』
『あぁ、ゴメン。とりあえず二人で電気消しとセキュリティかけに行こう。』
こうして私達は階段の下まで行きました。
案の定、階段を降りきった所に、膝から下の脚がぼんやり見えてしまいました…
勿論、アタシ達二人は半狂乱です。
『嫌ぁー!!無理無理無理!!!!』
『無いって!!無いって!!!』
全部電気を消したのか、セキュリティも正しくかけたのか分からないまま、私達は大急ぎで店から出ました。
『Nサン…無理です、この店…もう私一人で居るとか出来ません。』
『そうよね…私も嫌だ…。とりあえずOちゃん、明日から早番で来て、5時に上がって良いよ。私も朝一から来るし。』
そういう会話をやりとりして、その日は帰りました。
次の日、Oさんも私も出勤はしたものの、階段が気になって仕方ないのと、怖くて早く帰りたいのを、ごまかすかの様に、お客様が来られたら、いつもより数倍の笑顔で対応し、お客様のいない時は、今手にしてる仕事内容の確認を大声で言い合いました。
そんなこんなで、いつの間にか5時になり、Oさんは帰りました。
店には私一人です。
6時迄は、お客様も来られててバタバタしてましたが、6時以降は暇になってしまうので、私は一人で恐怖との戦いです。
なるべく階段の方を見ない・気にしない様にやり過ごしていました。
何とか閉店間際にさしかかり、カウンター裏のFAXで日報を送信していると
『すみませーん、ごめんください…』
(あれ…?お客さん!?ドア開く音も来店センサーも鳴らなかったのに!?)
私は恐る恐るカウンターへ出てみると、そこには女性客が居ました。
ツバのある帽子を被り、ワンピースの上に毛皮のジャケットを羽織った女性がカウンターにピッタリと張り付く様な状態で立っていました。
『お待たせ致しました。いらっしゃいませ。』
『あの…毛皮のクリーニングの値段を知りたいのですが…』
『今、お召しになられているジャケットのクリーニング料金でしょうか?毛皮は、毛皮の種類や用途によってもお値段がちがいまして…』
私が一瞬、女性客から目を離し、料金表を取り、女性客に目を戻すと、店内には誰も居ませんでした。
自動ドアも開いていなければ、来店センサー音も鳴っていません…
彼女は霊道を通って店を抜けたのか、まだ店内に留まっているのかも分かりません…
(後日談が少しありますので、お時間のある方は読んでみて下さい)
私はその店に2年程居たのですが、Oサンは怖がって半年程で辞めてしまいました。
新しいバイトさんが来るまでは、他店舗から応援の方に来てもらったりしてたのですが、その中で、霊感が少しある方が居て、店に入った途端
『うわ…ここ…凄い気持ち悪い』
と言い、一日中頭が痛かったそうで
『N、オマエよく平気で居れるなぁ』
と言われましたが、実は全然平気ではありませんでした。
私が異動して来て半年程経った(Oサンが辞めた)頃から、家に帰って一人になると、何故か私が死ぬ場面ばかり頭に浮かび、包丁で胸を刺す(刺される)場面、飛び降りる場面、バイクでトラックに巻き込まれ、首を折る場面…様々な死に方が毎日過ぎってました。
2年経って、また別の店に異動になったのですが、あのまま あの店に居たら、私はどうなっていたのだろうと思います。
その店舗だけ、2年以内に異動があったり、退職される方が多いので、今の所は誰にも害は出ておりませんが…
予想以上に長くなってしまいました…実体験なので、全てその時の会話(多少のズレ有り)、私の言葉で書いてますので、駄文ですが、お許し下さい。
ここまでお目通し下さった方々、有難うございましたm(__)m
怖い話投稿:ホラーテラー 菜乃香さん
作者怖話