皆さんは、一人で夜道を歩いているときに「自分の足音以外の音がする」と感じたことはないだろうか?
ひとりコツ、コツと歩いていると、心なしか、もうひとつ「コツ、コツ」と足音がしている気がして仕方がない…
たまりかねてパッと後ろを振り返ると、(当然のことながら)誰もいない…。
しかし、その足音、もしかしたら本当に実在するものかもしれないのでご注意を。
ある病院で真夜中、高齢の患者が非常階段から転落して死亡した。
その病棟は4階で、非常階段は廊下の突き当たりにある。
内側から鍵がかけられていて、廊下側からなら誰でも開けることができる。
…患者がなぜ転落したのかはよくわからない。
そのとき近くにいた違う患者の話だと「何かに追われるように急に廊下を走り、そのまま鍵を開けて非常階段に出て落下した」
ということだ。
自殺の線も考えられたが、患者は高齢のため、病院側は「認知症のためせん妄状態になっていたのではないか?」と判断した。
要するに「ボケた老人のわけのわからない行動」と判断されたわけだ。
しかし、看護師をはじめとした病院関係者はオカルトを信じている者が多い。
「あの廊下は呪われている!」などと皆口々に噂した。
そんな中、ある看護師(A氏)だけは「馬鹿馬鹿しい」と一蹴していた。
事件から数ヶ月が過ぎたある日のこと。
その日の夜勤の当直はA氏だった。
A氏は真夜中、件の廊下の巡回をしていた。
深夜の廊下に自分の足音だけが「コツ、コツ」と鳴り響く。
そのときA氏は死んでいった患者のことをぼんやりと考えていた。
「たしか、あの患者さんはこの廊下を走って死んじゃったのね…。少し気味が悪いわ…。」
オカルトを信じていないA氏とはいえ、そんなことを考えていると、後ろが気になって仕方がない…。
嫌な気分を抱えたままA氏は廊下を歩いた。
また、「コツ、コツ」「コツ、コツ」…A氏の歩く音が静かな廊下にこだまする。
…ふとよーく耳を澄ませていると自分の「コツコツ」という足音以外に、もうひとつ違う足音がする気がした。
A氏は幽霊の類は一切信じていない。
「気のせいに決まっている」「こんないわくつきの廊下だから、変な錯覚を抱いているだけにすぎないわ。」と自分に言い聞かせた。
「コツ、コツ」「コツ、コツ」…
しかし、何度そう言い聞かせても、足音はふたつある気がしてならない。
A氏は思わず後ろを振り返った。
…誰もいない…
安心して巡回を続けた。
しかし、しばらく廊下を歩いているとまた、
「コツ、コツ」「コツ、コツ」
ともうひとつの足音がするのである。
A氏はもう一度素早く後ろを振り向いた。
もちろん誰もいない。
その後、今度は少しだけ首を動かして、(小さな動作で)ゆっくりと後ろを見た。
A氏の少し後ろにはスリッパがあった。
A氏はそれを呆然として見つめていた。
すると…急にスリッパは素早くA氏のいる方向へ走りだした…!
A氏はわけがわからず、スリッパから逃げた。
全速力で廊下の突き当りまで行き、ドアを開け非常階段から飛び降りた。
病棟は4階である。
A氏は助からなかった…。
翌日、スリッパは非常階段の前に置かれていた。
その持ち主は、「認知症のため転落」したとされた患者のものであることが判明した。
その数ヵ月後、一人の研修医が真夜中同じ廊下を巡回していた。
さらにその翌日、研修医は非常階段から転落して死亡。
非常階段の前には今度はスリッパはなかった。
看護師のナースシューズが置かれていた。
怖い話投稿:ホラーテラー たけっぴさん
作者怖話