中編5
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試み

ある才能を持った男がいた。

『努力する才能』

男は何事にも努力を惜しまず、ひたすら励み、日々精進し、それでも慢心せず努力を続けた。

ある日男は男は『剣』と出会った。

それまでの生活の中ではあまり争う事を好まず、穏やかな人柄であったが剣の道を見つけた男は自身の中に燃えるような闘争心と、そんな自分さえ冷静に客観的に見据えられる、新たな自分の一面を発見した。

それからはまさに寝る間も惜しんで努力の日々。

その上達ぶりは尋常ではなく、通い始めた道場では半年もせぬうちに互角に渡り合える相手がいなくなり、一年を過ぎる頃には道場主さえ、歯が立たない程だった。

免許皆伝をうけたがそんなものは男にとってあまり意味を持たなかった。

男は旅にでた目的は己を高めるためその一点のみだった。

旅に出た男は世の中の広さを知る。

猛者がいると聞けば決闘を挑み闘った。

真剣での勝負は何度か経験があったがそれはあくまで試合でのこと本当の意味での真剣勝負。それは、『負け』=『死』という単純明快なもの。

事実、男は幾度も決闘を挑み、その全てに勝利をおさめた。

もちろん相手を殺してからこその勝利であった。

だが、男には高ぶることもなく己を磨き続けた。

そんな中、男は幸か不幸か『本物』に出会った。

勝負以前に相手の目をまっすぐに見れずに、相手は剣さえ抜かず男を倒した。

そして、男にトドメを刺さずに去った。

真剣勝負に敗れて生き恥をさらす。

剣士にとっては耐え難い屈辱。だが、男はそんなことよりも、『あの域』へ到達したい、そしてその先へ進みたい、とそんな感情しかなかった。

男はさらに己を磨いた。

幾多の決闘を繰り返し、名のある道場を潰し、高名な達人たちも葬った。

もちろん男も無傷という訳ではなかった。

体中いたるところに刀傷がはしり、左腕の傷は深くその手はまともに刀を握る事さえ出来なくなっていた。

それでも男は鍛錬を積み重ね、片腕しか使えぬが、凄まじい剣技を身に付け勝利を重ねた。

十数年の月日が流れ、挑む相手もめぼしい道場もなく、たまに挑んでくる若く盛んな未熟な剣士もいたが、彼らは男に得るものない虚しい勝利を与え死んでいった。

男は考えていた。

昔、自分が挑んで負けたあの相手も今の自分のように勝利ではなく自分を高められる相手を探していたのかと。

だから男は殺されずに生かされているのではないかと。

男は人との交わりを避けるように人里離れた山中にこもった。たまに噂を聞きつけた者が勝負を挑んできたが、一蹴、かつて男が味わったよう相手は剣も抜かぬ男に敗れた。

しかし、男は敗れたものたちにトドメを刺さずに言葉も残さず立ち去る。

別に意味を考えての行いではなかった。

ただ、なんとなくそれが正しく思えた。

男が山に入り数年がたった。

世間からは忘れかけられ、挑んでくるものもめったにいなくなっていた。

男はいつの頃かある夢を見るようになっていた。

かつて敗れた相手との勝負。

あの頃とは違い夢の中とはいえ互角以上に渡り合えた。

しかし、最後の勝利をおさめようとするその刹那に目が覚める。

男は肉体や技量はもちろんだが今まで以上に精神を鍛え上げようとした。

一日中瞑想にふける日々が過ぎ去っていった。

さらに数年が過ぎた。

男は年齢からすれば若々しく、鍛え上げられた肉体ではあったが、ゆっくりと、しかし確実な老いていた。

それでも精神というのか魂のようなものはさらなる高みに達し研ぎ澄まされていた。

そんななか久しぶりにあの夢を見た。

いつものように互角以上に渡り合っていた。

そして最後の瞬間、これまでのような興奮や焦りは、微塵もなくあっさりととどめを刺した。あっけない勝利。

男は目を覚まし、視界の中に映る老人に気付く。

倒れいるし、敵意など全く感じない。

警戒にも値しないと考えた瞬間老人は音もなく立ち上がり、顔を男に向けた。

かなり老けてはいるがたった今夢の中で倒した相手、かつて敗れた相手間違いなくその人だった。

男は一瞬、動揺を見せたがすぐに相手を見据えた。

だが、相変わらず敵意は感じない、それどころか微笑んでいるようにさえ見える。

不意に口を開き男に話しかけた。

男は呆然としながらも話を最後まで聞いていた。

大まかな内容次のようなものだった。

私はおまえたちが考える神のような存在だ。

おまえに『努力する才能』や剣の道、様々な試練を与えたのも私だと。

さらに、おまえは私の試練に打ち勝ち、全ての面で私を越えていると。

そして、最後にここまで突き進んだ男に褒美をやるなんでも願いを言えと。

男は自分でも信じられないほどに状況を分析できていた。

これまでの人生そのものがこいつの手のひらの上の出来事だったという現実。

それよりも神を越えてしまったという状況。

男は後者の方が我慢ならなかった。

というよりも巨大な喪失感におそわれていた。

これまでひたすら努力し研鑽を重ねた日々、これより先が閉ざされたような絶望が目の前を覆った。

その後、幾分かの沈黙が流れ、男は一言呟いた『人間を全て消してくれ』と。

男にとって努力し先を目指すことが生きがいであり、生きる意味だった。

それが崩れた今自分を含め人間が生きる意味などないと思いそうつぶやいた。

老人は納得したような表情で静かに手を挙げた。

男の目の前から老人はふっときえた。

しかし男は立っていたそれまでと変わらず何一つ変わらず立っていた。

奇妙な思いもあり男は山を降り近くの村へ足を運んだ。

人が見当たらない。

家畜の牛や鶏は見かけるが村人は一人もいない。

都へも行ったが、誰もいない。男は混乱のなかでも巡るおもいがあった。

確かに人間が消えろと願った。だが、私自身まだ存在している。

もしかして私は……

男は絶望と混乱の中で遠くだけど妙にはっきりと声を聞いた。

監察者A『やっぱりこうなるかぁ、もうちょいだけどな』

監察者B『でもだんだんよくなっているよ。少なくても信長や武蔵の時より進んだよ。』

監察者A『そうだね。でもやっぱり神様創るって大変だね。』

監察者B『まあ、気長に頑張ろうよ。夏休みはあと20日もあるし…』

この試みはいったいいつまで続く?

怖い話投稿:ホラーテラー テテトさん  

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