ある病院で語られた、何とも不思議で、後味の悪い話。
看護師(A氏)は妊娠をしていた。
妊娠してもうずいぶん月日がたつ。
お腹も大きくなり、仕事に行くのがとても辛かった。
しかし、彼女とその夫には莫大な借金があった。
借金返済のため、彼女も身重の体に鞭打って仕事を続けた。
…ところで、彼女の勤める病棟にひとりの金持ちの老人がいた。
その老人には身寄りがない。
また、猜疑心が強く、入院していても自分のお金はいつも肌身離さない。
金に対する執着心はただ事ではない、と病院内でも評判だった。
とても変わった患者だったので、A氏はそのことを家でよく夫に話していた。
しかし、最近になってその老人は重症の肺炎に罹った。
酸素吸入と点滴が必要となっていた。
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A氏は仕事を続けていた。
お腹の赤ちゃんも順調に大きくなっていった。
いよいよ仕事に行くことは無理、思われたある日。
A氏の夫はある提案をした。
「その年寄りからお金、奪っちゃおうよ」
と言うのである。
しかし、その老人は寝ている間もお金を肌身離さない。
いくら肺炎で弱っているとはいえ、少し無理がある、とA氏が答えた。
「だったらその酸素を、夜勤のときにこっそり止めればいい。」
「ナースコールは隠してしまう」
「そうすれば朝には患者は死んでいるから、その隙にチャッチャと奪えばいいじゃん!」
…なんとも軽い作戦である…
しかし、事実上それはほとんど「完全犯罪」といえた…
早速A氏は、夫の言われるままに夜勤のときに、老人の酸素を止めた。
ついでに点滴も止めた。
驚くほど簡単だった。
夜眠っている間は老人も全く気づかず、自覚症状もなかなか現れない。
苦しくなった頃にナースコールを押そうにも、それはA氏によって隠されている。
…翌朝、老人は息を引き取った。
A氏は一番に病室に行った。
そして、老人の死体へ酸素を再び流した。
点滴は引っこ抜いた。(老人が錯乱状態で、自分で抜いたことにするため)
さらにナースコールを元に戻した。
最後の仕上げ…お金を老人から取ろうか、という瞬間。
急にA氏は産気づいた。
気が狂いそうなほど腹が痛い。
A氏の下半身からは羊水が大量に流れた。
「生まれる…!」
A氏はそう覚悟し、違う看護師を呼ぼうかと考えた。
しかし、今の状況で呼べるはずもない…
結果、A氏はその病室で自己出産した。
出てきた子供の顔はしわしわだった。
生まれたての赤ん坊は、大抵しわしわである。
A氏もそのことを知っていたので気に留めなかった。
赤ん坊を抱き上げ、口の中の羊水を吐かせようとしたその時…
赤ん坊の顔のしわは、みるみる酷さを増していった。
まるで老人のように…!
その後、赤ん坊はA氏をまっすぐに見つめ、
「勝手にお金取ったらあかんよ!」
と怒鳴った。
怖い話投稿:ホラーテラー たけっぴさん
作者怖話