私の家は、自殺の名所青木ヶ原樹海の中にある。
勿論、森の中にぽつんと家が在るわけではなく、小さいながらも切り開かれた住宅地になっている。今は違うが、私が産まれた頃は住所も「青木ヶ原」だったらしい。
こんな所に生まれ育ったが、霊感というものが全く無いのであろうか生まれてから幽霊など一度も見た事はない。小、中、高と12年間通学で毎日通っていたトンネルが幽霊が出るトンネルとしてビートたけしの某番組に出てきたときは大爆笑したものだ。
ある冬の夜の事である。
私が勤める会社は、自宅から車で30分程の市街地にあり、国道を通り通勤する。この国道も樹海を横切るように通っていて、右を見ても左を見てもただ鬱蒼とした森が広がっている。
残業をして帰りが遅くなっていた。翌日も仕事なので早く帰りたいなと考えながら、車に乗って帰路についた。
市街地から自宅方向に向かうにつれ車線は減り、街灯も少なくなり道はどんどん暗くなっていく。私の他に走る車も見かけず、早く帰りたい私は自然とスピードを出した。
道中の半分を過ぎた頃だった。
前方に同じ方向へ向かう車を見つけた。
スキー客であろうか。何人かの若者が乗っているようだ。
ナンバーは県外で冬の道に慣れていないのかゆっくりと走っていた。私はスピードを落とし後ろについた。
しばらくの間そのまま走っていたが、突然前の車が左右に揺れた。
障害物でも在るのかと思いアクセルを緩めるが特に何もない。凍った道にタイヤを取られでもしたのか。少し車間を開けて走る事にした。
前の車はそれからも2、3回左右に揺れるとハザードを出して止まってしまった。
何かトラブルでもあったのだろうか。気にはなったが、私はウインカーを出し追い越した。 追い越した際、若者達が私の車を凝視しているのがチラッと見えた。
しばらくすると後ろから車がやって来た。よく見ると先程の車の様だ。何度かパッシングを繰り返しながら、後ろをついてくる。
私は少し恐くなり、スピードを上げた。すると後ろの車はクラクションを鳴らしながらさらに追いかけて来た。
追いつかれたら危ない。そう感じだ私はアクセルを踏み込み、さらにスピードを上げ遠回りにはなるが地元の人間しか知らない脇道へと入っていった。
後ろから車が追ってこない事を確認し、スピードを落とし遠回りをしなければならない事を嘆きつつ運転を続けた。
家に着くと母が電話をしていた。私の姿を見ると
「あ、今帰って来ました。代わります。」
そう言うと、受話器を差し出してきた。
「誰。」
尋ねると
「警察。車の事で聞きたい事があるんだって。」
警察から電話を受けるような心当たりはないので、疑問に思いながらも受話器を受け取った。
「無事に帰宅されたようで何よりです。お忙しいところ申し訳ないのですが、聴きたい事がありまして。」
「はい。」
「車のナンバーは○○で間違いないですか。」
「はい。そうですが。」
「先程、国道○号を 通りましたか。」
「はい。通って帰って来ました。」
「そうですか。実はおかしな車が走っているという通報がありまして。」
さっきの車の事だ。ピンときた私は
「あ、見ました。フラフラしたり煽ってきたり恐かったんです。何かあったんですか。」
そう答えた。
「あ、いえ、違うんです。多分通報したのがその車のかたなんです。」
「え、どういう事ですか。」
「通報者がいうには、おかしな車が走っていて、止めようとしたけれど、走って行ってしまった。そのナンバーが○○だという事でお電話しました。」
確かに私の車のナンバーだ。
「落ち着いて聞いてください。そのかたがいう事にはですね。」
警察は続けて話す。
「国道を走っていたら後ろから車がやってきたそうです。運転手がミラーで見ると、車の屋根の上と助手席に血まみれの人が乗っていたそうです。ビックリした拍子にハンドルを切りそこねそうになったそうです。同乗者の方も皆見たようでパニックになり、一度車を止めたそうです。落ち着いたら教えてあげたほうがよいのではという事になり追いかけたが、スピードが上がってしまって危ないので、追うのは辞めて 通報したそうです。」
私は生まれてから幽霊など一度も見たことはない。が、案外身近にいるのかもしれない。
怖い話投稿:ホラーテラー 廿卅さん
作者怖話