清掃員をしている人から聞いた不思議な話です。
彼の勤め先の事務所の物置に、長細い筒状のクッキーの缶が2つ保管してある。
中にはギチギチに五円玉が詰まっている。
驚くくらい全部五円玉。
ソレは彼等が仕事中に拾った『落し物』だそうで、両替すれば結構な金額にはなる。
彼の会社の請負は、スーパーモールなどの大型施設のフロアー清掃だそうだ。
察しはつくと思うけど、最初からお金が入った缶がドサッと落ちていた訳じゃない。
つまり現場のフロアーに落ちたお金を、少しづつ拾って缶に集めたモノという訳だ。
罰当たりにお金を掃除機で吸い込む訳にはいかない。
そうして拾ってる内に積もり積もって、五円玉はここ数年で二缶まで貯まった、という話だ。
でもよく考えると、お金が貯まるペースや量がどうも普通じゃない。
いくら人が集まる大型施設と言っても、お金がそうホイホイ落ちてはいないはず。
お金を扱うのは各店舗の中のレジ周辺だろうし、フロアーの上にお金が落ちてることはほとんどないはず。
しかも落ちているのは一円でも十円でもなく、何故か五円玉。
人為的にお金が置かれているとも考えられる。
一日数百人、数千人の出入りのある中で、フロアーに五円玉を置いてく人間がいるという事だ。
落ちてる理由については誰もしらないし、清掃業者として別に深く探る程の事でもない。
とにかくそうやって、仕事中に落ちてるお金をほぼ毎日拾っていたそうだ。
ある時一人の作業員がいつも拾って貯めている五円玉が、全部平成7年製造のモノだという事に気付いた。
(この話手の彼が入社する前の話だそうですが…)
この話を聞いた彼も実際に保管されてる物置で確認したそうで。
缶の中に詰まった五円玉を一掴みして確認してみると、全部が全部、見事に平成7の五円玉だったそうだ。
一年365枚×数年=二缶
これは確実に誰かがやっている事だと分かった。
毎日毎日拾われた五円玉に、どんな想いが込められいるのか。
彼はその一枚一枚から、まとわり付くような妙な重みを感じたそうです。
店側の験担ぎという説がある。
「御客様に御縁(五円)がありますように」
「ラック(ラッキー7)が訪れますように」
スーパーモールの責任者だか誰かがそういうまじないの意味で、フロアーにお金を落とす。
多分ソレが一番有力な説で、だからこそお金を店側に還さず落し物として貯めてある訳だけど。
倉庫でお金を手に乗せた時彼が感じたのは、『商売繁盛』という穏やかな気とは全然違うものだったそうです。
もっと重い念みたいなものを感じた。
平成7年。
日本にとって平成7年は、歴史的にも最悪の年。
地下鉄サリン事件や、阪神淡路大震災が起こった年。
「いつまでも不幸に、御縁がありますように」
彼が五円玉から感じた念はは、そんなニュアンスがしっくり来るんだそうです。
その五円玉は今でもほぼ毎日落ちていて、未だ理由はかっていない。
ただ缶の中身に作業者全員、誰も手をつけないのは絶対にヤバイものだと心の底で思っているからだ。
缶を持ち上げ底を覗くとやはりそこには、一枚のお札がきっちりと貼られているそうだ。
おわり
怖い話投稿:ホラーテラー ハミーポッポーさん
作者怖話