その日は木枯らしが冷たく吹き付けていた。
大学へ向かうため、僕はジャケットを羽織り、アパートを出た。
表通りはやや坂道になっており、その坂を上る方に歩いていく。
木枯らしが僕の顔に当たる。
「今日は寒いな。」
と下を向き呟きながら歩いていくと、視界にどす黒い物が入る。
それは坂の上から流れてきていた。
「?」
まるで血のようなそれを、僕は靴につかぬよう端によけた。
僕が立っていた場所に、その血らしき液体が流れていった。
「…どこからだ?」
僕はそのどす黒い流れを辿っていった。
しばらく行くとゴミ捨て場があり、そこから流れてきているようだった。
「えっ!?」
思わず口に出してしまった。
積み重ねられたゴミの上に、人が横たわっていた。
いや…人…なのか?
間違いなく、人。
それだけなら、別に判断には困らない。
ただ、それは…結ばれていた。
そう、本当に“結ばれていた”のだ。
まるで巨人が人間の手足を引っ張って伸ばし、骨を砕きながら蝶結びにしたかのようだった。
血が、その結ばれた人の腹部から流れていた。
動けずにいると、僕の後ろをサラリーマン風の男が追い越していった。
僕は慌ててその男を呼び止めた。
「あ、あの、これ見て下さい!」
その男は面倒くさそうに振り向くと、
「あぁ…それですか…」
と言った。
「大変です!警察を呼びましょう!」
と僕が言うと、
「いいんですよ。だって、結ばれてるんでしょ?」
と男は言い、足早に歩いていった。
「どういう事だ…?」
混乱しながらも携帯電話を取り出し、震える指で警察へ電話をかける。
「はい、警察です。どうされました?」
繋がった!
「あの、人が死んでるんです!」
「なんですって!詳しく話して下さい!」
「えっと、人が蝶結びに結ばれて死んでるんです!」
と僕が言うと、
「なんだ…」
と、落胆した声で警官は答えた。
「別にいいんですよ。だって、結ばれてるんでしょ?」
と言われ一方的に電話を切られた。
…何なんだ?
疑問に思いながらも、僕は大学へ急いだ。
数日後、表通りを歩いていると、ゴミ捨て場には例の結ばれた人がいた。
その前で立ち尽くしている若い男が僕を呼び止める。
「あの…これ!?」
僕は面倒くさそうに振り向くと、
「いいんですよ。だって結ばれてるんでしょ?」
と答えた。
今日も木枯らしが強いな。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話