僕はその日の営業を終えて、帰途についていた。
すると、先を歩く取引先の田中さんを見つけた。
田中さんは僕と年齢も近かったこともあり、覚えている。
先日お会いしたときに、
「今度はプライベートでお会いしたいですね」
とも言っていただいたのを思い出した。
これも何かの縁と、僕は田中さんに話しかけることにした。
「田中さん、こんばんは。」
「!あぁ、どうもこんばんは。」
と僕の顔を見て驚いたような表情を見せた。
-いきなり話しかけて驚かせてしまったかな?-
「偶然姿をお見かけしたので、声をかけさせていただきました。」
「あぁ~どうも気を使っていただいて…」
「田中さんはいつもこの時間に帰られるのですか?」
「えぇ…まぁ。えっと………あなたもですか?」
「はい。田中さん、お時間ありますか?これからどうでしょう?」
と僕は酒を飲む仕草をする。
「あっ、はい、いいですよ。」
「よかった。じゃあ良い店知っているので行きましょう。」
「すいません田中さん、急に…」
「いえいえ…」
田中さんは顔を掻きながら答えた。
…なんか田中さんそわそわしているな…やはり飲みは迷惑だったかな?
そんなことをついつい考えてしまう。
「えっと…キクチさんは…」
不意に田中さんが口を開いた。
菊池は僕の上司で、先日の取引で同席していた。
「あっ、菊池ですか?取引がうまくいったので、上機嫌ですよ。おかげさまです。」
「!あっ、そうでしたか、それは良かった。」
しばらく歩くと公園が見えた。
「この公園を抜けましょう。近道なんです。」
と僕は言い、薄暗い公園へと入っていく。
…?
公園の中程まで来て、違和感に気付く。
田中さんが下を向き立ち止まっている。
「…?田中さん?」
僕が近づくと、田中さんが顔を上げた。
その顔は白目をむいていた。
そして、とても低い声で
「我はこの地の守護霊なり…汝…名を名乗れ…」
と唸った。
パニクった僕は
「き、木島です!」
と名乗った。
「ォオ…そうか…」
と田中さんは言うと、数秒目を閉じふらふらと座り込んだ。
「大丈夫ですか!?」
と僕が聞くと、田中さんは立ち上がり
「あぁ~また憑いちゃったか。よく憑かれるんですよ。気にしないで下さいね。行きましょう…木島さん。」
田中さんは照れたように笑った。
僕らは店へと歩き出した。
あの体験は怖かったなぁ。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話