これは僕が高校生になり朝の満員電車にもやっと慣れた頃の話。
電車を待つ駅のホームでは列の最後尾につけ、乗車時のり口付近で電車に揺られ通学していた。(混雑に流され電車の中央に行くのが嫌なので)
毎日電車に乗っていると同じ車両に乗ってくる人の顔はなんとなく覚えはじめていた。
僕の次の駅で乗るオジさんは、僕を可愛がってくれた亡くなった親戚の叔父さんに似ていたし、僕と同じ駅で降りるので、勝手に親近感を感じていた。(以後Aさんとする)
ある日、いつもの様にそのAさんは混雑に流され電車の中央に押し込まれる様に乗ってきた。
ふとAさんを見ると、そのAさんの2メートル先に見慣れない髪が長く背の高いキレイな女性が僕を見ていた。
「キレイな人だな」
と見とれているとその女性がこちらに近づいてきた。しかし、その動きが異様であった。乗車率120%は越えている電車内をまるで人をすり抜ける様に。
そして、僕のところに来るのかと思ったらAさんの横で止まり、何か耳打ちする横に話しかけた。
僕は自分を見ていたと勘違いしたのが恥ずかしくなりAさんに背をむける形で体の向きを変えた時。
背筋に寒気を感じたと同時に耳元で
「お前じゃない」
とささやくような声がした。
振り返るが話しかけてきたと思われる人もおらず、Aさんの隣にいたあの女性も消えていた。
そして、下車する駅に着きAさんが電車を降り、何人かに続けて僕が降りた時、
「ドサッ」
前にいたAさんが崩れるように倒れ、瞬間的に今まさに動きだそうとする電車を見ると、先ほどの女性が右の手のひらを窓につけサヨナラを言う姿で「ニヤッ」とする顔があり、間もなく電車は発車した。
Aさんを見ると、囲むように野次馬と「大丈夫ですか?」と声を掛ける人。
しばらくしてAさんは救急隊に運ばれて行った。
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その後、Aさんを電車で見ることはなくなった。
多分、亡くなったんだと思う。
そして、あの女性は死神だったんだと思う。
僕はあれから10年経った今でも、
「お前じゃない」
と言われた声を忘れられない。
怖い話投稿:ホラーテラー ランドリーさん
作者怖話