私の姉の話です。
私の姉は、看護師で現在は救急病院の婦長です。姉の性格は、気が強く豪快で男勝りですが、他人には優しくて周りの人に好かれる人です。
私は姉に、死体の事についていろいろ尋ねました。
姉は看護師なので人の死に遭遇するのは日常茶飯事で慣れっこです。
姉は、豪快な性格なので死体を恐れず、死後処置などの業務も、へっちゃらだそうです。
姉の話では、死体が涙を流す事があるそうです。でもそれは体液漏れで、死体の指などが動くのは死後の筋肉の収縮、死体の髪やヒゲが少しのびるのは、皮膚が縮むからそう見えるだけだそうで、それから死体がゲップすることがあるそうで、でもそれは体内に溜まった腐敗ガスが体外に漏れた時の音だそうです。
私は、姉に今迄に怖い体験した事あるか尋ねました。
姉は、「怖いと言うか不思議な体験は、2回だけある。でも看護師ならみんな一度や二度は、体験してる。」と言ってまいした。
これは姉が20代の頃の話で、その時、姉は斎藤さんという70代後半の食道癌で入院していた男性の担当でした。
斎藤さんは気難しくイヤミな感じな人で、あまり人に好かれるタイプではなかったそうです。
斎藤さんは、親戚にも嫌われているみたいで、見舞いに来る人は誰一人としておらず、
身内に娘が一人いるだけで、奥さんには逃げられたそうで、一人娘は嫁いで外国に住んでいて、斎藤さんとは絶縁状態でした。
斎藤さんの病状は、手術が出来ないほど癌が進行していたそうで、病院も外国に住む娘さんに連絡しようとしましたが、所在がわからず、連絡に手間取りました。
やっと連絡がとれたのですが、娘さんは最後まで病院に見舞いに来ませんでした。
それから数週間後に斎藤さんは、亡くなりました。
病院は、娘さんに遺体の引き取りをお願いしましたが、外国に住んでいるので、すぐには無理で時間が掛かるそうでした。
仕方なく病院も引き取りに来るまで遺体を預かることにしました。
斎藤さんの遺体の死後処置は、担当だった姉がすることになりました。
斎藤さんの遺体の前で、姉は心の中で(最後まで身内にも見とられずに可哀相な人、いったいこの人の人生には、どんな事があったんやろ。)と準備をしながら考えてたそうです。
処置をするため斎藤さんに近付くと、閉じたはずの目が見開いています。
姉が閉じてもまた開く、これを何度も繰り返して姉は、「おかしいなぁ?」と不思議に思ったそうです。
姉は、佐藤さんの目を閉じさせようとしましたが、すぐに目が開いてしまいます。
姉は、困り果てました。(このままでは、眼球が乾燥してしまう。)
仕方なく姉は、死後処置を先にする事にして脱脂綿を握った時、
佐藤さんの口から「美智子!」と声がしました。
「えっ??」
姉は、佐藤さんの遺体を見つめました。さっき確かに「美智子!」って聞こえたけど・・・
でも、やはり佐藤さんは亡くなっていて死後硬直も始まっていました。
死後、体内にガスが溜まって抜ける時に、声紋を震わせて「ア~」とか「オ~」とか音がすることがあるそうですが、さっきははっきりと「美智子!」と聞こえました。
姉は、しばらく佐藤さんの遺体を見つめていましたが、気を取り直して処置にかかろうとした時、
「美智子!」
今度は、はっきりと見ました。
佐藤さんが姉の方を見て、唇が確かに動いて「美智子!」と言ったのを、流石の姉も怖くなって他の同僚に代わってもらったそうです。
同僚は処置を難無く済ませナースセンターに帰ってきました。
別に変わった事もなかったそうです。
三日後、娘さんが遺体を引き取りに来ましたが、その時に書いた書類の名前が「美智子」だったそうです。
佐藤さんは姉を美智子さんと間違えたのでしょうか?
姉が看護師になりたてのハタチの頃の話です。
その時に担当したのが同じ歳の大学生、加藤君でした。
加藤君は小さい頃から腎臓病で入退院を繰り返していたそうです。
加藤君は病気のせいで、いつも顔色が悪かったそうですが、とても明るい性格の人だったそうです。
同じ歳ということもあって姉と加藤君は、すぐに打ち解けたそうですが、やがて加藤君は姉に好意を寄せるようになりました。
そして告白されたそうです。
しかし姉には、その時彼氏がいたので(現在の旦那)
断りました。
それでも加藤君は、姉に何度もアタックしてきたそうです。
やがて加藤君は退院していきましたが、その後も姉の勤める病院に入退院を繰り返しました。
姉が23歳の時、加藤君がまた入院してきました。
でもその時は、加藤君の腎臓は全く機能しておらず、もう限界でした。
加藤君を救うには、移植しか手がありませんでしたが、その当時は、まだ移植は法律で認められておらず加藤君は事実上、死を待つだけでした。
それでも加藤君は、姉に会うと明るく振る舞ったそうです。
続きます。
怖い話投稿:ホラーテラー 拝み屋の孫さん
作者怖話