赤い灯りの中、階段を昇る足音…客が来たようだ。
交渉は表にいるおばちゃんがしてくれる。
客は初老の男性。
髪はロマンスグレー。きれいに整えられた口髭。目鼻立ちがはっきりした、いい男だ。
男は高そうなコートを脱いだ。
衣紋掛けを差し出す。
客とはいえ、過剰なサービスはしない。
ここは、サービスの良さを売りにはしていない。
男は衣紋掛けにコートを掛けた。
おばちゃんがお茶を持って来て、ここのルールを説明する。
客と私の安全の為だ。
おばちゃんは私にある物を手渡す。
これから客の身におこる事から身を守る御守りみたいな物だ。
客が身につける事によって私も守られるのだ。
幼少より強力な霊力を持つ私も、このちっぽけな御守りを頼っている。
今まで、このちっぽけな御守りの力を信じず、廃業した者は数知れない。死んだ者も少なくない。
少し私の事を語りたい。
私は幼少より見えざる者を見る能力があった。
大人達は私を気味悪がり、離れていった。
私は愛を知らず育っていった。
小学生の頃は私の力は羨望の的だった。
私は、その力を大いに自慢した。
よく友達と自転車で、近所の廃屋や森などに、肝試しに行ったものだ。
勿論、いつも私が主役だった。
しかし中学に上がると事態が一変した。 私の霊力を疑う者が現れた。
誓って言うが私の霊力は本物だ。
私のグループから一人、また一人とアンチ霊派へと去って行った。
気がつけば、私は一人になっていた…。
暗い中学時代を過ごし、高校は誰も知らない所を選んだ。
高校に入学すると力の事は隠した。
そして私は所謂、高校デビューを果たした。 荒れた高校時代だった。 暴走族にも入った。 族仲間を通じ、ヤクザとも繋がりができた。 私はこのまま、どっぷりと悪の道に染まって行くんだなぁ、そう思っていた。
悪い事は大抵の事はした。 殺人以外と言った方が早い。
ヤクザなんて信用しない、利用するだけと思った私に、転機が訪れた。
そう、この仕事を勧めてくれた、真栄里大主との出会いだ。
彼は私の力を見抜き、仕事を回してくれた。
幾つもの仕事をソツなくこなした。
そして、彼の信用得て現在の場所で、この家業を生業とするに至った。
男は私の業の前に恍惚の表情を浮かべる。
最期の時は近い。
さあ観音様を拝むのだ!
ここは大阪飛田新地、今日も私は客に観音様を拝ませる。
怖い話投稿:ホラーテラー 鯑天井さん
作者怖話