「なあ、廃屋行かねえ?」
放課後、特に予定のない僕は、そんなMの言葉をすんなり受け入れ、学校近くの森の奥にある廃屋へと向かった。
玄関は×型に木が打ち込んであり開けることが出来なかったため、裏口の割られた窓から侵入した。
時刻はまだ16時過ぎだというのに、中はかなり暗い。
特に何かが起きたわけでもないのに、気分が悪くなってきた。
やはりこの廃屋の不気味な雰囲気がそうさせるのだろうか。
そうこうしながら30分程探索した頃だった
無惨にも破壊された仏壇のある和室で、今まで黙っていたMが急に言葉を投げてきた。
「お前、神や仏って、信じる?」
急な質問に僕は答えを窮し、押し黙ったままMの顔を見つめた。
そんな様子に気付いたのか、僕の答えを待たずにMは話し始めた。
「この廃屋には多くの成仏出来ないヤツらがいるんだよ。
こいつらは生前、神や仏に毎日熱心に祈りを捧げ、自分が極楽浄土や天国へ行けるよう願ったんだな。
ところがどうだ。いざ死んでみたら、平安の地なんかどこにもありゃしない。
あるのはこんな薄汚い廃屋と、死んでも苦しみから解放されない己のみ。
死ぬまで信じてきた救世主様はどこにもいなかったってわけさ。
ははは!マヌケな話だと思わない?笑っちゃうよね?(笑)」
Mが話をしている間中、天井、襖、床と、ありとあらゆるところからミシミシという音が鳴り響いていた。
「そろそろ外も暗くなるし、帰ろうぜ」
Mと僕は侵入してきた裏口へ戻り、久々の外界へ顔を覗かせた。
「邪魔したな。」
Mは廃屋の何かに向かって、そう呟いた。
廃屋にぶつかる風の音が、啜り泣く声に聞こえたような気がした。
その後、特に異変もなく卒業を迎え、僕は東京の大学へ進学した。
そのまま東京で就職し、あの日から10年の月日が流れたある日のこと。
地元の友達から、Mが、あの日の廃屋で自殺したという連絡が入った。
一発、拳銃で頭を撃ち抜いて。
原因は不明。Mに近しい人たちも、思い当たる節はなかったと言う。
ただ、横たわるMの傍らには、
「オレがお前らの救世主になってやる。
オレが神で、仏で、悪魔だ。」
と走り書きされた紙切れが残されていたと言う。
Mは果たして、廃屋の彼らの救世主となったのであろうか。
それとも彼らと共にあの廃屋でさまよい続け、いつ出会えるかもわからない神を待ち続けているのだろうか。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話