風邪を引いた時にばーちゃんに『何がたべたい?』と聞かれた。
僕は『おかゆがたべたい』と言うと必ずお粥ではなくおじやが出てきた。
『ばーちゃんコレおじやじゃん』と言うと『お粥もおじやも一緒だよ。食べたくなかったら食べんでいい』と言われた。
優しかったじーちゃんに比べて厳しいばーちゃん。
じーちゃんの手紙にばーちゃんは実は寂しがり屋さんだから、優しくしてあげなさいと書いてあった。
一人暮らしのばーちゃんが心配で高校時代は週に一回は顔出しにいってた。
『ご飯食べていきなさい』と言われ、出てくるのは煮物に漬物になぜかおじやだった。
『今日はあんたの好きなおじやだから一杯食べなさい。残したらひっぱたくからね!!』
毎回毎回食べるとさすがに飽きてくるが、せっかく作ってくれたから渋々食べる事にした。
社会人になってからも毎週ではないが、たまに顔出しに行った。
夕飯は相変わらず煮物に漬物になぜかおじやだったが。
そして最近ばあちゃんが脳梗塞で入院した。
退院はできたものの言語がはっきりしないなど後遺症が残った。
それだけならよかったけど、虚言まで言うようになりボケはじめた…。
心配になり、アパートを引き払い、仕事もやめてしばらく一緒に暮らす事にした。
洗濯や掃除など、習慣で行っていた家事は体が覚えているのか?決まった時間にこなしていたが、夕飯はいつもと違った。
煮物、漬物、白飯…
おじやはその日以来出なくなった。
ボケもひどくなり、家事もしなくなり寝たきりになったばーちゃん。
一生懸命来る日も来る日も話かけたり、介護したりと元気になってもらう為に色々と頑張った。
あの日…じーちゃんと同じように眠るように亡くなっていた。
人はいつか死ぬ…遅かれ早かれ死ぬ…どんなに延命してもいつか誰にしもその日がくる…自分が誰かの思い出になる日が…
自分の無力さと世の無常さに泣いた。泣かずにはいられなかった。
現在は妻と息子と暮らしている。
このあいだ息子が風邪を引いた。
妻は『何が食べたい?』と聞くと『お粥』と答える。
そんな姿を横目で見ながら自分が子供だった頃を思い出す。
今でもお鍋の後におじやはするが、ばーちゃんの味とは違う。
近い味を再現しようと調味料を色々加えてみるが、やっぱり違う。
じーちゃんの手紙に書いてあった事は本当かもしれない。
『ばぁさんのおじやには世界で一つしかない調味料が入ってるんだよ。それは健二への゛愛情゛という隠し味だ』
くだらないかもしれない…けれど愛情というスパイスが入っていてもいなくてもばーちゃんの味は誰にも作れない気がする。
怖い話投稿:ホラーテラー 健二さん
作者怖話