私の住んでいる県(以下、I県)に、s峠という、峠がある。
s峠は昔、I県と隣りの県(以下、A県)を結ぶ、重要な交通路だったらしいが、きつい山道と、交通量の増加で、下にトンネルが作られた。
この話は、トンネルが出来る前の昭和45年ごろの話である。
昭和40年代前半にs峠で、殺人事件が起こった。
事件は、若いカップルが、s峠を通行している途中で口論になり、運転していた男が車ごと、女を崖下に落とした。
男は脱出し、警察の事情聴取にも平気で答えていた。
しかし、女が生前家族に、
「別れたい」
などといっていることが分かり、警察が調べるうちに男が殺害したという考えが強まり、男は逮捕された。
それから数年が経って、s峠の交通量がだんだん増加してくると、ある噂がたつようになってきた。
それは、夜中に一人の男が運転している車に限って、s峠を通行する際に一人の女が乗せてくれと頼む。
そこで、乗せないと峠を越える前にパンクするという落ちがあったのだが、のせたときにどうなるのかは、分からなかった。
また数年が経って、この噂自体が消えかかってきたころ、I県に住むある男Xがこの噂を耳にした。
男は、噂を聞くとすぐに友人であるYに電話をかけ、噂が事実であるのかを一緒に調査してほしいと伝えた。
一週間後、XとYはそれぞれの車でs峠へと向かった。
途中、s峠の交通量が増えたことによって建設されるsトンネルの工事現場を横目に見つつ、峠道を上がっていった。
峠の一番上についたのは、午後2時くらいだった。
下調べでのぼってきたので、一回おりようということになった。
ちょうど、峠をおりてから少ししたところにT温泉郷という、温泉街があるのでそこで休もうということになった。
温泉につかり、本来の目的を忘れそうになりましたが、時間は午後6時。
温泉旅館のロビーで計画の再確認をした。
計画は、まずYが車を走らせ、峠で女がいたら乗車を拒否し、A県のT駅前で待機をする。もし、パンクしたらT駅まで歩く。そして、Yが出発してから二時間経った後に、Xが峠で女を乗せてT駅で合流して、終了というものだった。
午後8時。Yが出発した。
その後、二時間が経ち、Xが出発した。
外は、二時間前から降っている雨で、視界が悪かった。
峠の頂上を越えたあたりで午前0時すぎくらいであった。
その、直後くらいに人影が雨で濡れたフロントガラスに映った。
Xは、恐る恐る車を止め後ろのドアの窓を開けた。
そこには、20代くらいの若い女が、雨に濡れながら立っていた。
「乗りなさい。」
Xがそう言うと、女は静かにドアを開け後部座席のシートに座った。
「どちらまで?」
「……T駅」
そう、女が答えた。
車は、パンクすることも無く峠を越えT駅についた。
「気をつけてな。」
Xがそう言うと女はT駅の中に消えていった。
xはこのとき初めて恐怖感に襲われた。
しかし、あることに気がついた。
Yはどうした?
そのほうが、恐怖だった。
車の中からは、Yの車の姿は見えない。
Xは、急いで駅の中へと入っていった。
Yはいた。
XはYに聞いた。
「女はいたか?」
「いたけど…」
「どうしたんだ?」
ここで、心に引っかかっていた疑問があらわになった。
「車……どうしたんだ?」
「……」
「おい!」
「ごめん……。思いだしたくないんだ。」
「そうか……」
xはYを自分の車につれていくと、後部座席に寝かせた。そして自分も眠りについた。
起きたのは、午後になってからだった。
Xは、まだ寝ているYを起こさないようにI県に戻ろうと車を動かした。
今度は、何も無くs峠を通ってI県に戻ることが出来た。
Yを自宅に送り、自分も自宅に戻ってきた。
その後、その話とは縁を切った。
しかし数ヵ月後、会社からとんでもない出張届けが出された。
A県への出張。
Xは身震いした。
当時、I県とA県を結ぶ最短ルートはs峠を通るルートだった。
しかし、昼間通ったときは大丈夫だったので、昼間に通ることにし安心した。
しかし当日、荷物をまとめるのに時間がかかり家を出たのは、午後五時だった。
Xは考えられるすべての神様とご先祖様に祈りながら、峠をのぼっていった。
峠の山頂についたのが、午後八時だった。
しかし、A県T町の中心部に入っても、異変は起きなかった。
そして、三日たち、戻る日がやってきた。
Xはこのとき峠の女は自分が乗せたのだから、もういないと考えるようになり安心しきってい
た。
そのため、Xは夜に帰ることにした。
この判断が甘かったのだった。
午後九時に出張先を出たXは、一路I県を目指し車を動かした。
しかし、峠の山頂くらいまで来たとき、「パァン」と音がして、車が動かなくなった。
Xは、外に出た瞬間いやな事を思い出した。
数ヶ月前の出来事。
Xは動けなくなった。
しかし、その瞬間あの女の声が聞こえてきた。
「……バイバイ」
Xは、気がついたら病院のベットに横たわっていた。
(終)
怖い話投稿:ホラーテラー 国道さん
作者怖話