私のお母さんは人より耳が長い。
触り心地がいいので、悲しい気持の時にはついその耳を撫でてしまう。
お母さんもそういう時は何も言わずに私の好きにさせてくれる。
私はまだ小学生だけど、将来はお母さんとお花屋さんかケーキ屋さんをやりたい
。
でも、私の今の生活はとても辛い。
夜になるといつも、あいつが私の部屋にやってくるから。
お父さんは私が産まれてすぐ死んでしまって、お母さんが一人で私を育ててくれ
た。
私はお母さんの再婚には反対だ。
それが気に入らなくて、あいつは私をいじめに来る。
今夜も、二階にある私の部屋を目指して、階段をあいつが上がってくる音がした
。
それだけで体が震える。
昨日は煙草の火を押し付けられた。
一昨日は耳たぶにホチキスを打たれた。
普通に殴られていた頃がもう懐かしい。
無駄と知りながら、思わずクローゼットに隠れてしまう。
私の部屋のドアが開き、あいつが入って来た。
部屋の様子は見えないけど、ベッドに私がいないので、不思議に思っているはず
。
少しの間物音が聞こえたけど、やがてドアが閉まる音がした。
家出して逃げたとでも思ってくれたらいい。
一時しのぎだったとしても。
溜め息をつきながら、静かにクローゼットを開ける。
背筋に氷を詰められた様な気がした。
真っ暗な中、クローゼットの真ん前にあいつが立っていたから。
全身から冷たい汗がドッと噴き出す。
騙そうとしたのがばれた。
「悪い子だね、隠れたりして」
「ちがうのちが」
言い終わる前に鼻を殴られた。
そして「いじめ」が始まり、夜明けまで私は悲鳴をあげ続けた。
もう耐えきれない。
ここからいなくなりたい。
でもこんな目に逢って、ただでは死にたくない。
誰か、道連れにしてやりたい。
できればあいつを。
けど…
私の憎しみは段々、あいつよりもお母さんに向かうようになっていた。
なぜ助けてくれないの?
いつも黙って見ているだけで、何もしてくれない。
あいつは他人だけど、あなたは私のお母さんなのに、どうして!
私はあいつのパソコンからインターネットで、悪魔の人形というのを注文した。
真っ黒なその人形は一週間後にうちに届いた。
これに呪いを込めて首を切り落とせば、その夜、憎い相手の首も落ちるという。
但し、人形の首を切ってすぐに自分の命も悪魔に捧げなくては効果がない。
私は呪う相手をお母さんに決めた。
あいつは確かに酷いけど、もっと許せないのは何もしてくれないお母さんだから
。
それに、あいつと一緒に死ぬなんて嫌だし。
一人で孤独に死ぬのが、無駄死にみたいで一番惨めだけど、でも小学生の私が、
大人を一人道連れにする。
これって結構凄くない?
ごめんね。
お母さん。
◇◇◇
ある夜、小学生5年生の女子が一人、自室で首吊り自殺をしているのが見つかった
。
部屋には首のちぎれた黒い人形が転がっていた。
近隣の人々は噂した。
「あの子のお母さん、再婚を子供に反対されて、随分怒って折檻してたみたいよ
。
今、警察で事情を聞かれてるって」
「そのせいかしらね、子供が自殺なんて」
「ぬいぐるみのこと知ってる?」
「黒い人形じゃなくて?」
「人形とは別に、部屋に、首のちぎれた兎のぬいぐるみもあったらしいわよ。
私、前に、あの子供が、そのぬいぐるみに向かって『お母さん』て呼んでるの見
たことあるのよ。
実の母親の事はあいつ呼ばわりしてたわ」
「実母に虐待されて、おかしくなってたのかしら。
その実の母はもうこれで気兼なく再婚できるってわけ?酷い話ね」
「そんなに上手くいかないでしょ。もう鬼母ってインターネットで顔と名前が出
回ってるらしいから、因果応報よ。
でないと、ぬいぐるみ道連れに自殺なんて、子供が惨めすぎるじゃない…」
終
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話