夏休み、田舎のばぁちゃん家に遊びに行った。
俺はその時中2で、ばあちゃんに会うのはじいちゃんの葬式以来だ。
なにしろ家が遠かったから、行って帰るのにもかなり時間がかかる。
いままでも、今年は行こうかと家族の中で話がでていたが、
結局、電話をかけて
「今年も行けないんだけど、元気にしてる?そうそう、聞いてよこの前さぁ、、、」
としばらく話す程度になっていた。
5年も会ってなかったから顔も良く覚えていなかったけど、
電話で話すとき、いつも
「うん、うん、」
と相づちをうってくれて、笑ってくれて、相談にものってくれて…
俺にとって友達のような、いいばぁちゃんだった。
ばぁちゃん家は、先程もいったが、かなりの田舎で、普段都会でくらしている人にはちょっと暮らしにくい場所にある。
が、俺が住んでいるところも都会ではなくて、近くにコンビニやスーパーがないのは慣れっこだった。
そろそろ、肝心のそこで体験したコトについて話す。
山や田圃ばっかの所なので、
想像しにくい所もあるかもしれないが
俺も文章がうまいほうではないので許して欲しい。
ばぁちゃん家は、民家が集まっているあたりの細道をかなり上った所にあった。
バスは細道のちょい手前までしか通ってなかったので
そこからは歩いた。
夏の真っ昼間なので、かなり暑いだろうと思ったのだが、
両側からはえた樹木が影を作ってくれていた。
道の所々にある苔むした石垣や錆び付いたガードレール、哀愁の漂う景色を眺めていると、それだけで涼しくなった気がした。
そろそろ半分上ったか、と思う頃
10メートル程遠くに、人影が見えた。
(えっ、ばぁちゃん?暑いのに立ってまってんの??)
「ばーーーぁちゃーーん。俺だよーーー。来たよーーー。」
そう叫んで駆け寄ってみると、案山子だった。
「…違った…?。」
十字にした木の棒、作業着のような物をきせて、
頭になる部分には丸めた布でも入っているんだろうか…黄ばんだ麻の袋がかぶせられていた。
顔は…。
「お前、それ誰?知り合いか?…って人じゃないし。、何コレかわいそ。ぼろぼろやし。」
「ソウタ兄ちゃん歩くん遅っ。」
後ろから、兄のハルオと弟のシュウイチの声がした。
バスをおりてから、二人とも酔ってベンチで休憩していたので、
親の了解を得て、先にばぁちゃん家に向かっていたのだが、、、
弟の言う通りか。
ゆっくり歩きすぎた。
母さんと親父も、後ろからついてきてる。
「なにソウタ、まだこんなトコいたの?てっきりもう着いてると思ったわよ。」
「なぁなぁ、ここ田圃とかないけど?なんで案山子があるんだ?」
兄ちゃんが俺に聞いてくる。
(あれっ、ホントだ。田圃ないじゃん。
何のためにあんだよ?)
「そのまえに、顔、どうにかしてやってよー。単純すぎだよ。」
シュウイチに言われて、改めてよく見てみた。
へ へ
の の
も
へ
マジックで、書き殴ったかんじで顔が描かれていた。
あまりに適当で、かわいそうになってくる。
ほつれてボロボロになった作業着が、風邪に揺れる。
「なんか、懐かしいねー。お父さん?」
母さんが、かがんで案山子の顔をのぞき込みながらつぶやく。
「そうだな、父さんや母さんが子供の頃は田圃が遊び場だったからな。それに、今はこんな案山子あんまりないしなぁ。」
親父がそう言うと、母さんがおもむろにカバンからなにかとりだした。
「ナニ…ソレ。」
訝しみながらそう問いかけると、
母さんはジャーンと勢いよくこちらを向くと、なにかを握った手を差し出した。
見ると、トンボ玉の付いたストラップがつままれ、揺れていた。
「それどうすんの…。」
透明のガラスの中に、空色と藍色のラインが入っており、銀のラメがちりばめてある。
確か、母さんの携帯についていたものだ。
俺の問いには答えず、案山子に向き直った母さんは
案山子の腕(棒だが…)に、ストラップを通してぶら下げた。
「私たちが遊びに来た印と、案山子さんにプレゼント!またしばらく泊まりに来れないと思うから。」
子供みたいに笑う母さんをみて、
シュウイチはため息をつくと、
「なんか、修学旅行に来た中高生みたいだよ…。」
「何々??その哀れむような目はぁ!お母さんのコトなんだとおもってんのよっ。まだまだ衰えちゃいないわよ!」
母さん達が騒いでる間にも、案山子についたトンボ玉は、日の光を通して
控えめにチラチラと光っていた。
案山子の前からなかなか動かない俺たちにしびれをきらしたのか、
兄ちゃんと親父は
後ろを気にしながら、もうかなり先に行ってしまっている。
「あぁー、もう暑ちぃから早く行こうぜ。シュウイチも母さんも、バトルなら後でしてくれよ!」
かろうじて歩き出したが、それでも喋りながらなので遅い。
「ばぁちゃん、遅いなぁって待ってると思うぞ。」
そう言うとやっとケンカをやめてくれた。
(チッ、兄ちゃんも親父も、タイミングよくいなくなりやがって。。。)
しばらくしてから、ふと後ろが…というか案山子が、気になり振り返ってみた。
しかし、坂は緩やかなカーブになっていたらしく、
案山子のいたあたりは、もう見えなくなっていた。
(…。なんかキモかったな…、あの案山子。)
前に向き直ったとき、あんなにうるさかった蝉の声がしなくなっているのに気づいた。
怖い話投稿:ホラーテラー 草介さん
作者怖話