皆様、こんばんは。
そして始めまして。
雨四光と申します。
私の兄がこのサイトに投稿しておりまして、その影響で私も投稿する事にしました。
兄は実話ばかりの心霊話を投稿している様ですが、生憎私には霊感と言う物が殆どありませんので、人間の恐怖話を中心に話させて頂きます。
私は以前、ファミリーレストランで副店長をしておりました。
副店長と言っても業務内容は店長と変わりありません。
もちろん、アルバイトの面接や採用も致します。
ある日、店にアルバイト希望者から電話が入りました。
私はその方に明日の午前10時に店に来て頂いて、面接をする旨をお伝えしたのです。
しかし翌日の午前10時になっても、その方は店にいらっしゃいません。
面接希望者のドタキャンなど日常茶飯事なので、
「あ〜またか。」
くらいにしか思いませんでした。
そして私はそのまま勤務につきました。
お昼のピーク、夜のピークを終え、私がスタッフルームで食事休憩を取っていますと、アルバイトの方に呼ばれました。
私がフロアに出てみると、玄関に50代半ばくらいの女性が立っていました。
アルバイトの方に伺うと、どうやらあの女性が面接をドタキャンした女性らしいのです。
時刻は午後10時。
なるほど、午前と午後を勘違いされたわけです。
私は空いている席に女性を案内し、面接を始める事にしました。
女性は南部さんと申す、55歳の専業主婦の方でした。
私は志望の動機や働ける時間帯などを伺いました。
しかし南部さんは週1回で、しかも1時間しか働けないと仰います。
その条件では雇用するわけにはいかず、残念ながらお断わりしました。
すると南部さんは求人誌には年齢不問とあるじゃないかと詰め寄ってこられました。
たしかに求人誌には年齢不問と記載されていますが、不採用の理由は勤務時間の短さですので、それをお伝えしました。
ですが、南部さんは年齢不問の事ばかり問いただしてきます。
そんな南部さんを何とかなだめて、お帰り頂きました。
翌日。
店にアルバイト希望者から電話が入りました。
その希望者はなんと、南部さんでした。
私は少し気持ち悪さを感じながら、今一度採用出来ない事をお伝えし、電話を切りました。
その次の日から店に無言電話が掛かって来るようになりました。
それも毎時間丁度に。
私は毎時間59分になる度、電話があるのではないかと、気になって気になって仕方なくなりました。
そして期待を裏切らないというか、予想通り毎時間00分に電話が鳴るのです。
しかし飲食店の手前、無言電話と分かっていても出ないわけにはいきません。
無言電話は平日、休日問わず毎日続きます。
一週間もすると私以外にも無言電話に出る人がいるわけで、たちまち店中の噂になりました。
私は無言電話の犯人に心当たりこそありましたが、店長を始め、アルバイトの方達にも内緒にしていました。
無言電話が掛かって来るようになって一ヶ月もすると、人間慣れとは怖いもので、まるでルーティンワークの様に無言電話を処理します。
ただ、最初の頃は開店時間の朝9時から深夜0時までだった無言電話が閉店時間の朝5時まで掛かるようになっており、確実にエスカレートしていました。
アルバイトの方達は、競合他社の嫌がらせだとか、このファミリーレストランは昔お墓だった場所に建てた呪いだとか、口々に噂していました。
しかし私は面接で不採用にした南部さんだと思っていましたので、その執念深さが気持ち悪かったのです。
月日は流れて7月の中旬。
私はある男子大学生を新規で採用しました。
彼は斎藤君という、非常に真面目で仕事熱心な青年でした。
なんでも母子家庭の為、母親に仕送りと自分の学費の為にと言う動機でアルバイトを始めた、今時珍しい方でした。
私は彼の教育係をかって出て、早く戦力にと色々気に掛けて働いていました。
斎藤君がアルバイトにようやく慣れ、仕事も覚えて来た頃です。
また店で異変が起こりました。
棚卸しと言う業務があるのですが、何度食材の在庫を数えてもサーロインステーキなど比較的高額な商品が足りないのです。
オーダーミスや、調理ミスなどもある為、多少の在庫にズレはあるものですが、ケース単位で食材が無くなっているのです。
私は店長に相談しました。
店長曰く、食材が無くなっているのはアルバイトが盗んでいる可能性がある。
今までそんな事はなかったから新人が怪しいと。
最近働きだした新人と言えば、斎藤君しかいません。
しかし私は彼がそんな事をする様には思えませんでした。
私は食材庫のドアに在庫管理中と赤ペンで張り紙をし、牽制という形で、これ以上被害がないように対策をしました。
対策がこうをそうしたのか、翌月からあり得ない数の在庫が無くなる事は無くなりました。
しかし若干の差はまだ続いていました。
夏も終わり、お疲れ会と称して店長がスポンサーになって下さり、バーベキュー大会をする事になりました。
場所は近くの河川敷。
メンバーは店長と私、そして大学生や高校生など若いメンバー達。
皆でワイワイやって、非常に有意義な会になりました。
夜になって花火大会もして、皆仲を深めていきました。
私は酔いがまわってしまい、その日は斎藤君の部屋に泊めてもらう事にしました。
斎藤君のアパートは三階建てで、斎藤君の部屋は一階の一番奥でした。
間取りは何の変哲もないワンルーム。
部屋にはベッドとテレビ。
そして小さいテーブルとCDラックとプレイヤーがあるだけで、男の部屋にしては綺麗に片付いていました。
私は素直に綺麗に片付いてるねと伝えると、斎藤君はたまに母が掃除に来ると返します。
なるほど、お母さんが掃除に来てくれているから綺麗に片付いているのか。
納得でした。
結構お酒が入っていた私は、シャワーを借りて、床で寝てしまいました。
途中、斎藤君が風邪をひくからとタオルケットをくれましたが、寝相の悪い私はタオルケットからはみ出して、大の字で寝ていました。
深夜、喉の渇きで目が覚めます。
斎藤君はスースーと寝息を立てて、ベッドで寝ていました。
お水を頂こうと、暗い部屋を手探りでキッチンに向かいます。
向かうと言っても、ワンルームの為、ドアを開ければそこはもうキッチンです。
換気扇の横の紐を引き、小さな明かりを点けました。
食器棚からコップを借りて水道水を汲みます。
ゴクゴクと喉を鳴らし、水道水を飲み干したのですが、夏場の為に水がぬるくて満足出来ません。
そこで私は斎藤君には申し訳ないが、勝手に冷凍庫から氷を拝借する事にしました。
冷蔵庫の上部が冷凍庫になっているタイプの冷蔵庫で、小さな持ち手の付いたドアを開けます。
すると、そこには大量のサーロインステーキが。
紛れもなく店から盗まれたサーロインステーキが目の前にあるのです。
私は落胆しました。
斎藤君を信じていたのに裏切られた気分で、眠気も覚めてしまいました。
ただ、斎藤君が母子家庭で金銭的な余裕もないのを知っていましたし、事実、店での働きぶりは評価していましたので、今回は目を瞑る事にしました。
今後も続くようなら、注意しようと。
翌朝、目覚めると斎藤君が目玉焼きと味噌汁を用意してくれていました。
深夜の事があったので、まさかこの卵や野菜もかと一瞬よぎりましたが、自分の中で消化しまして、ありがたく頂きました。
朝食を取り、テレビを観ながら斎藤君と色々な話をしました。
そこで斎藤君はアルバイトの森田さんに気がある事を打ち明けられました。
森田さんは女子大の二年生で、明るく人懐こい性格の為、お客様からも人気のある子でした。
顔は関根さんの娘さんに似ています。
私は斎藤君なら行けるかもしれないよと返答し、応援してあげる約束をしました。
森田さんはその時、彼氏がいないのも知っていましたし、斎藤君とならお似合いのカップルになれると思ったのです。
色々な話をするうち、サーロインステーキを盗んだのは経済的な理由で、基本的に斎藤君は物凄くいい奴なんだと改めて感じました。
昼前になって斎藤君に電話がありました。
話している内容から、相手はお母さんで、これから掃除に来るようです。
私は邪魔しては悪いと思い、帰る事にしました。
斎藤君は昼メシも食っていけばいいと言ってくれましたが、アルバイトのお母さんにまで迷惑を掛けたくなかったので、断わりました。
斎藤君に挨拶をし、部屋を出て、エントランスに向かう途中で女性とすれ違いました。
私は何処かで見たことがあるなと思い、軽く会釈をしましたが、思い出せません。
女性は会釈を返す事なく、廊下を歩いて行きました。
すれ違いった後、私が振り返ると、その女性は斎藤君の部屋に入って行きました。
あーあれが、斎藤君のお母さんかと思いましたが、気にとめる事はなかったのです。
駅まで向かう途中、私は重大な事を思い出しました。
そう、斎藤君のお母さんに見覚えがあったのは、あの女性が無言電話の犯人に違いない南部さんだったのです。
その週の土曜日。
週末の為、店長と私の二人ともが出勤でした。
更衣室で着替えをしながら、店長と話しをしていると、本日から新人が入るらしい。
どうやら昨日、私が休みの時に面接を済ませ採用したとの事。
新人の教育はこの仕事の醍醐味でもある為、私はどんな方が来るのだろうと非常に楽しみにしていました。
18時から出勤するようでしたので、まずは皿洗いからと思い、厨房担当の石川さんにトレーニングをお願いしました。
そして18時少し前。
新人さんが出勤して来ました。
その新人は南部さんでした。
私はわけがわからなかったのですが、以前不採用になったのにも関わらず、また応募をして、見事店長に採用されたのでした。
私は自分でコミュニケーション能力には長けていると思っていましたが、その時ばかりはどうやって接していいかわかりませんでした。
私の出した答えは極力関わらない。
それ以上の策が浮かびませんでした。
そして南部さんの採用日から嘘の様に無言電話は無くなりました。
しかし逆に言えば、これでほぼ無言電話の犯人は南部さんだった事になります。
でも採用され満足して、無言電話が無くなれば良いかなとも思います。
実際、無言電話は店を運営していく上でかなりの障害になっていましたので。
店長や他の方達も無言電話が無くなった事に喜んでいましたし、犯人がどうだという話にはなりませんでした。
南部は今回、週一回で一時間の条件でなく、週五回の四時間を提示しており、否応なしに週三回から四回は顔を合わせる事になりました。
初めのうちは関わらないようにしていましたが、仕事上どうしても接点があります。
南部さんは洗い場担当なのでお客様から下げたお皿やグラスを洗い場に私が運びますし、備品が切れそうになればお願いもしなければなりません。
洗い上がりを所定の位置に戻す時に、南部さんにお礼を言うのですが、私に対してだけ返事がなく、まだ不採用にした事を根に持っているようでした。
斎藤君の件については、南部さんも斎藤君も他人のふりをして仕事をしていましたので、私以外の方は二人の関係を知りません。
斎藤君からも私に何もなかったのです。
働きにくさを感じながらも月日は流れ、一ヶ月経つ頃には、南部さんも仕事に慣れたようで、石川さん達とも仲良くやっているようでした。
そんなある日、女子大生の森田さんから、こんな相談を持ちかけられたのです。
南部さんが、彼氏の有無を必要に聞いてきたり、何故か斎藤君を進められると。
森田さんも初めは南部さんの勧めを流していたらしいのですが、ここ数日必要以上に迫られた為に気持ち悪くなり、私に相談してきたのでした。
私は森田さんの話を聞くうち、南部さんの執着心と子を思うあまりの歪んだ愛情に悪寒を覚えました。
そこで私は森田さんにだけ南部さんと斎藤君の関係を打ち明けたのです。
森田さんはそれを聞いて、南部さんだけでなく、斎藤君にまで嫌悪感を抱いたようです。
斎藤君には申し訳ない気持ちもありましたが、斎藤君の森田さんへの想いを南部さんが知っていると言う事は、斎藤君が母である南部さんに入知恵をしたのでしょうから、別に構わないと思いました。
それから何度も仕事終わりや、電話などで森田さんの話を聞くうち、近頃南部さんの執拗な斎藤君推しが更にエスカレートしていると聞きました。
そしてどうやら学校帰りに尾行され、家を突き止められそうになったと。
何とか尾行を捲いたようですが、追いかけて来た車の後部座席には斎藤君が乗っていたらしいのです。
ここまでくれば、立派なストーカー行為なので、私は森田さんに警察に行くように勧めました。
そして数日後に森田さんは警察に相談に行ったのでした。
しかし、警察によれば実害(暴力行為など)がない以上は捜査出来ないとの事。
それを私に知らせてくれた森田さんは電話口で泣いているのがわかりました。
私も何とか力になってあげたいと思いましたが、良い案が浮かびません。
取り合えず、何かあれば夜中でも早朝でも連絡するように言ってきかせました。
森田さんがあんなに悩んでいる中、当の本人達は何食わぬ顔で勤務しています。
その事に私は怒りを覚えていましたし、相談に乗るうちに森田さんに少なからず好意を寄せてしまったのです。
森田さんも森田さんで私に好意を寄せてくれているのも分かりました。
でも二人は彼氏彼女の間柄ではないですし、今はただのアルバイトとそのアルバイト先の社員です。
いっその事、付き合ってしまえば、もっと森田さんの力になれるのではとも思いました。
そんな事を考えている矢先、森田さんの方から告白を受けました。
私に断る理由はなく、お付き合いをする事になりました。
しかしこれが悪夢の始まりだったのです。
最初は店長や他の方に秘密で付き合っていましたが、しばらくすると私と森田さんの関係に気付く方が出てきたのです。
噂は広まり、ある日斎藤君に森田さんと付き合っているのかと聞かれました。
私は森田さんを守る事にもなると思い、交際を認めました。
斎藤君は無表情で応援していますと告げ、その場を離れて行きました。
その日から私に嫌がらせが始まりました。
着替えがなくなったり、車に傷がつけられている事が増え、時にはパンクさせられていました。
実害があったのですが、犯人を特定する証拠がなく、犯人がわかっているだけに悔しい思いをしました。
ただ森田さんへの嫌がらせはなく、彼女を守れるならいいと我慢していました。
最悪、言い方は悪いですが、社員の権力を使いクビに出来ない事もないので、証拠を残すまで闘ってやろうとまで思っていました。
それからも私に対する嫌がらせが続きました。
先にも話したように、着替えがなくなるのはほぼ毎日で、車に悪戯される他、タイムカードが割られていたり、靴の中に生卵が入っている事もありました。
そしてその様な行為がある日には、必ずアルバイトに斎藤君か南部さんが入っているのです。
私は我慢の限界を感じていました。
しかし、森田さんを不安にさせまいと彼女には黙っていました。
ある休日、森田さんと昼間から会ってランチに出掛けました。
イタリアン系のチェーン店で、美味しく食事をし、日頃の嫌がらせを忘れて、楽しんでいました。
食事を終えて、店を出ると停めてあった車のフロントガラスに何か赤く書かれています。
遠目からでも赤いスプレー缶だとわかりました。
車に近づくと、そこには嘘つき野郎と書き殴った様に吹き付けてあったのです。
森田さんは不安そうに私を見つめます。
私は森田さんに説明する前に、ここでは人目につくと思い、取り合えず、森田さんを乗せてガソリンスタンドに向かいました。
洗車機にかけても、落書きはなかなか落ちず、結局知り合いの塗装屋に頼んで、業務用のシンナーの様な液体で消してもらいました。
消えて一安心し、森田さんに一連の嫌がらせを打ち明けました。
彼女は泣いて謝ってくれましたが、一切彼女には非がないのです。
私は彼女を家まで送り届け、その足で警察に被害届を提出しました。
そこで気付いたのですが、イタリアンレストランに行く前に落書きがなかったという事は、食事をしている間に書かれた事になります。
と、いう事は尾行されていたのです。
さっきは怒りのあまり気付きませんでした。
そして気付いてしまった今、怒りから恐怖に変わりました。
もし、ガソリンスタンドや塗装屋までも尾行されていたのなら、その後、彼女を家に送り届けたので、彼女の自宅マンションが判明してしまいます。
私は自分の浅はかな行動に自分で落胆しました。
そしてすぐに彼女に電話しました。
不幸中の幸いか、今の所、変わった様子はないようでした。
しかしまだ安心出来ず、森田さんさえよければ近い内に引っ越しするようにお願いしました。
もちろん引っ越し費用は私が出すつもりで。
私の急なお願いに彼女も困惑しており、すぐには返事出来ないとの事。
当たり前といえば当たり前ですが、そのくらいあの親子を恐怖に感じていたのです。
二日後、突然森田さんから呼び出され、近くの喫茶店で会う事になりました。
喫茶店に着くと、彼女は一番奥の席で待っていました。
そして私が席に着くなり、彼女は茶封筒を差し出し、別れたいと一言言いました。
私は状況が飲み込めず、渡された茶封筒の中身を確認しました。
中には写真が一枚。
私が知らない女性と遊園地か何処かで楽しそうに写っていました。
私はその女性に見覚えもなければ、勿論、その女性と遊園地に行った記憶もありません。
そしてその写真にはご丁寧に日付けまであり、森田さんとお付き合いが始まってからの物でした。
はたから見れば、私が浮気をして、女性とデートしているように見えたでしょう。
彼女もまた、そう捉えた様です。
私は説明をしましたが、若い彼女にとって一度思い込んでしまったら、その説明すら言い訳にしか思えなかったのでしょう。
どれだけ私が説明しても信頼と信用を回復するには至りませんでした。
彼女自身もあの親子のせいで、心身共に疲れていたのだと思います。
そして捏造だとはいえ、信頼していた彼氏の浮気。
もう彼女のキャパを越えていたのでしょう。
そうして私達は別れました。
彼女はその週でアルバイトも辞めました。
私もその後に色々あって仕事を辞め、県外に出て、今は全く別の分野で働いています。
そうそう、
今年の正月、私に届いた僅かばかりの年賀状の中に、何処で私の住所を調べたのか斎藤君からの年賀状がありました。
裏面には写真が印刷されており、結婚しましたと手書きで添えられていました。
結婚式の写真で、斎藤君の隣には純白のウエディングドレスを着た森田さんが写っていました。
あれからどんな経緯で二人が一緒になったのか知りませんし、知りたくもないですが、嫌悪していた男性に嫁ぎ、あの南部さんの義娘になった彼女に一番の恐怖を感じました。
きっと差出人の斎藤君は今頃、ほくそ笑んでいるのでしょう。
愛しい人を手にいれて、母親とともに。
怖い話投稿:ホラーテラー 雨四光さん
作者怖話