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中編6
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先輩

初投稿、誤字脱字勘弁してくださいm(__)m

今から6年前の夏、僕は居酒屋でバイトをして生計を立てていた。

その居酒屋のマネージャーで、3つ年上のAさんとは馬があい、プライベートでもちょくちょく遊ぶ仲だった。

A先輩は、普段はおちゃらけて冗談ばかり言う人だが、仕事に対する姿勢は誰もが尊敬するほど熱心で、面倒見もよく、スタッフ皆から好かれ、信頼されていた。

そんなA先輩が無断欠勤をした。

皆驚いた。

遅刻、欠勤は今まで通しても数えるほど。また、そのすべてに事前連絡が入っていたので、A先輩の身に何かあったのでは!?と店長が電話をかけたが音信不通。

自分もメールに電話、先輩の住まいのアパートに置き手紙と、考えうるすべての連絡手段を取ってみたが反応無し。

そんな状態が2週間ほど続き、誰もがAさんの復帰を諦めはじめたときだった。

平日の夜で店が暇だったこともあり、僕は店を早めに上がった。

着替えを済ませ、階段を下り店を出たところで、僕の目に飛び込んできたのはA先輩だった。

すぐさま先輩の元に走り寄り、「先輩!」と呼び掛けた僕に対して、「よぉ」と言ういつもの間の抜けたような返事と優しい笑顔、それと同時にくちゃくちゃと髪をこねくり回す大きな手。

いつものA先輩だ!と安堵した僕は、若干泣きそうになった。

僕「今まで何やってたんですか!?連絡も付かないから皆心配してたんですよ!?」

A「悪い悪い。ちょっと体調くずしちゃってな。それよりこの後暇か?」

僕「予定はないですけど…取り敢えず皆に知らせてきます!!」

と走り出そうとしたした僕を先輩が制止した。

A「店には後で謝りに行くから今日は俺に付き合ってくれねぇか?な?」

その時の先輩の表情が、今まで見たことの無いくらい真剣なものであり、どこか寂しそうでもあったので、僕は黙って頷いた。

A「よっし!!じゃあ今から肝試し行くか!!笑」

僕「!??!?!!?」

あまりに唐突すぎる先輩の提案に、僕は数秒固まったが、仕事以外の時間は、ノリと場面で生きているような人なので、全くこの人は…とため息を吐きつつ付き合うことにした。

行き先は車で1時間ほど飛ばした自殺の名所。回りは山と崖で囲まれ、大きな紅い橋がかかっており、真下は湖。

橋の至るところに献花や供物が備えられ、下を覗き込めば、今にも吸い込まれそうな闇が大きな口を開けて、新たな自殺者を飲み込もうと待っているような気がした。

「落ちても助けに行かねぇからな笑」

背後からの不意な呼び掛けに、一瞬ビクッと体を震わせ振り返ると、そこにはビデオカメラを手にした先輩が立っていた。

僕「脅かさないで下さいよ。それよりそんなもんどっから持ってきたんですか?」

A「へっへっへ、いいだろ、こないだ実家に返ったとき、引っ張り出してきたんだ。」

そう言って先輩はカメラで辺りを録画しだした。

カメラを回しだして30分近く経ったが、心霊現象の一つも起きず、夜遅かったこともあって、その日は先輩の家に泊まることにした。

帰りの車内、もう10分も走らせれば到着というところで、いきなり先輩が

「やっべ、今家のデッキ壊れて再生出来ないから実家の方に車を回してくれないか?」

と言い出した。

実家といっても、同じ市内で、先輩の家からもさほど距離は無いので僕はそれを承諾した。

実家に到着した時点で、時間は夜中の2:30頃。

カメラの確認をして寝ると言う流れになり、二人でそそくさとデッキのセッティングをし始めた。

再生ボタンを押し、代わり映えの無い映像を二人でぼーっと眺め、もう少しで録画映像も終わりに近づいてきたとき、カメラに奇妙な落下物が写り込んでいることに気がついた。

巻き戻し、そのシーンをスロー再生してみると、その落下物は人だった。

正面の崖を映したほんの4、5秒の間、崖の上から力無く闇に飲み込まれていく人の姿を、カメラははっきりと捕らえていた。

二人とも絶句。

先輩も撮影中は全く気がつかなかったとのこと。

二人であーだこーだと映像の事を話し合ったが、時間も時間なので、どうするかは次の日の朝に決めることになり、僕は今居る部屋、先輩はすぐ向かいの襖の部屋で寝ることとなった。

初めてのショッキングな体験に僕は中々寝付く事が出来ず、タバコをふかしながら夜が明けるのを待った。

とは言え、仕事と運転の疲れから徐々に瞼が重くなりだした明け方頃、先輩が寝てる部屋の襖がカタカタと鳴り出した。

もう少しで眠れそうな僕は、若干イラつきながら襖を開けた。

そこにはあぐらをかく形で、布団を頭から被った先輩がガタガタ震えていた。

どうしたんですか!?と聞いても、「山で冷えて風邪を振り返したみたいだ。気にするな」としか答えない。

先輩はそう言い張るし、僕も睡魔には勝てず、

「じゃあ、何かあったら呼んでくださいね」とだけ伝え、その日は床に着いた。

次の日の朝10時頃、僕は体を揺さぶられ目を覚ました。

そこには、キョトンとした顔の先輩のお母さんが立っていた。

「おはようございます。驚かせてすみません、昨日の夜Aさんと遊んで、そのまま泊まらせてもらいました。」

と説明した僕に対して、さらに目を丸くさせ首を傾げるお母さん。

二人の間に微妙な空気が流れ出したので、僕は先輩を起こそうと、襖を開けた。

が、今度は僕が首を傾げた。

僕の目に飛び込んできたのは、大きな仏壇と、その上で優しく微笑む先輩の遺影。

人間は本当に驚くと、フリーズするらしい。

仏壇を見ながら固まっている僕の肩を、お母さんは優しくぽんぽんと叩き

「あの子は1週間前に死んだの。だから昨日の夜と言うのはありえないわ。何か勘違いをしたんじゃない?」

と、優しく問い掛けてきた。

何がなんだかわからなかった。

いろんな事が頭の中をぐるぐる回る。

現に、昨日は二人で肝試しに行き、カメラを回したのも先輩だ。帰りも一緒だったし、ビデオの確認も一緒にした。だって明け方までそこの部屋に居たじゃないか!!

半分パニックになっている僕を見て、お母さんも何かを感じたらしく、再度

「話してちょうだい?」

と優しく問い掛けてきた。

僕は昨日の夜の事を細かく説明した。

その間お母さんは、涙を流しながら黙って頷いていた。

説明を終えた後、お母さんは涙を拭いながら、

「そう、そんなことがあったの。きっと最後にあなたに挨拶に行ったのね。最後まであの子に付き合ってもらってありがとう。」と言った。

その言葉が、お母さんの涙が、これが現実だという事を僕に実感させ、いつの間にか僕は大粒の涙をこぼしていた。

久しぶりに泣いた。泣きじゃくる僕をお母さんが優しく抱いてくれてたのを覚えてる。

一通り泣き終わったあと、お母さんが

「さて、別れの挨拶は済んだとして、このビデオをどうしたもんかね。」

と呟いた。

僕も昨晩から気になっていたこともあり、もう一度再生して見ることにした。

すぐさま後悔した。

お母さんも固まった。

昨晩は人だとわかる程度のものだったが、落ちていくそれは、まさしく先輩そのものだった。

冷たい笑顔を顔に浮かべ、手をひらひらと振りながら。

後にお母さんから聞いたのだが、先輩は自殺だった。

体にダンベルをくくりつけ、3日間沈んでいて、上がったときには体はブヨブヨだったらしい。

そう、あの場所で。

そんな息子の姿を見せたくなかったので、先輩は親類の間だけで密葬された。

ビデオの件はお母さんから僕に一任された。

「持っていても、捨てても、お寺に預けてもいい。最期にあの子があいに行ったのは、あなただから」

お母さんが、そう寂しそうに微笑んだのが印象的だった。

これは後日談だが、僕はテープをどうするか迷った結果、鑑定も兼ねて、テープをコピーし、木曜にやっている某怪奇現象番組に送ってみる事にした。

しかし1週間後、手紙付きで僕の所にテープは帰ってきた。

色々と長い文章が書かれていたが、簡単に言えば

「ヤバすぎて放送できない。寺かどっかに持って行け」

との事だった。

だけど僕はテープを手放せなかった。

手放すと、先輩との思い出まで一緒に手放す気がして。

先輩は何故僕のところに現れたのか、何を伝えたかったのか。その後僕に変化があったわけでもない。

6年経った今でもわからない。

オチも何もありませんが、これが僕の最初で最後?の心霊体験のお話です。

お付き合いありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー ガジ男さん  

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