誰でもいい・・・
一緒に車に乗ってくれる人なら誰でも良かった。
24時間営業のレストランでコーヒーを飲んでいた。
空腹でもあったが今食べてしまうと、それこそ起きていられなくなるのは目に見えていた。
長く休んではいられなかった、ともかく朝まで3時間程で東京に帰りつかなければならない。
さぁ行くかと立ち上がると後ろから声がかかった。
女性「失礼ですけど」
私「はぁ」
女性「東京へ行かれるんですか?」
私「そうですが」
女性「もしよろしかったら同乗させていただけませんか? 車の調子が悪くてとても走れそうにないので」
一見すると40過ぎ、という事は私と同じくらいの世代の婦人、
上品な印象で怪しいような気配は全くなかった。
男と女といっても中年同士、特別問題もないだろう・・・
私「どうぞ、かまいませんよ」
女性「ありがとうございます。助かります!」
その婦人は何度も頭を下げた。
外は寒かった山では雪が降っているのだろう。
私「いや眠くて困ってたんですよ、連れが出来て良かった」
女性「お役に立てるといいんですが」
と、その女性は微笑んだ。
私「参ったなぁ・・・」
いや、助手席の女性は大いに役に立ってくれた。
くだらない話をしている内に、すっかり眠気は覚めてしまっていた。
ところが事故渋滞に巻き込まれ先頭が見えない程、車の列は長く続いていた。
私「これじゃ朝までに着けない」
女性「お急ぎですの?」
私「ええ、まぁ。しかし、これじゃ・・・」
女性「もし、お急ぎなら・・・いい道を知ってますが?」
私「本当ですか?」
女性「ええ、この先を左へ出て細い道に入るんです」
車や道に詳しそうにも見えないが、多少間違っていても、この渋滞なら同じ事だと思い、
国道から外れて、街灯も何も無い山道へと車を走らせた。
私「驚いたなぁ・・・」
女性「内心、信じていなかったでしょう?」
私「参りました、いや、こんな道があったんですね・・・」
私は指示される通りに、右へ左へハンドルを切るだけで、どっちへ向かって走っているのかもわかっていなかった。
しかし、山道らしい道の向こうには明らかに東京としか思えない光の群れが見えていた。
私「しかし、もう一回この道を辿ろうとしても無理だな」
女性「一回しか通れませんわ、誰でも・・・」
私「ん・・・どういう意味です?」
女性「左へカーブです」
私「おっと!!」
私「ちょっと間違えば谷底でした、危ないところでした・・・」
女性「・・・人生ってそんなものですわ」
私「・・・なるほど、人生は山道に似ている、そうかも知れませんね」
思いもかけない言葉に戸惑ったが、私は笑いながら、そう言った。
そしてふと、妙な感じを受けた・・・
前方へ注意を集中させていたので助手席の女性をマジマジと見る余裕は無かったのだが、
チラッと見ただけでも、その女性の横顔は最初に見たときよりも随分若く見えた。
そんなはずはない!
暗いし、目が冴えてきたのでそう見えるだけだ!
私は運転に集中した。
道は、もう明るい光の群れに随分近くなっていた。
女性「もうじきですよ」
私「そういえば、おいくつなんですか? 何だか、お会いした時よりも若く見えて・・・」
女性「18歳ですよ」
私は笑って、
私「いくら何でも・・・」
チラッと目をやって、私の笑いは途切れた。
本当に少女の横顔がそこにあった。
女性「前を見ていないと危ないですよ」
私はハッとした。
車は危なく道から外れるところだった。
私「前に・・・お会いした事がありましたっけ?」
私「その声になんだか覚えがあるような気がして・・・」
女性「やっとお分かりになりました?」
女性「自分が捨てた女の事はサッサと忘れてしまうんですね」
私は息を飲んだ・・・
私「君は・・・しかし、そんなバカな・・・」
私は大学の頃はワリとモテた方で3人とも4人とも同時に付き合ったりしていた。
その女性は確かに私が大学生のころ、しばらく付きあってから捨てた女性だった。
しかし、それはもう20年以上昔のことだった。
女性「私は18歳で止まったの・・・」
女性「あなたに捨てられて自殺したからよ」
私は愕然として彼女を見た。
女性「この道は人生なの。若くして死んでしまった私の先の人生。だから暗闇なの」
私「冗談はよせ!!」
私は前方を見るのを忘れていた、ブレーキは間に合わなかった。
車は暗い闇の中へと飛び出した。
眼下に広がる光の海。それは東京ではない・・・
私「あれは何だ?」
女性「誰でも行き着くところよ」
女性「あの世へようこそ」
底知れぬ闇の中をどこまでも車は落ちていった・・・
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話