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中編4
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フィクション 後編

「なんだっ! 麻衣がどうしたんだっ!!」

……教室の先生の話によると、川田が来る10分程前に、若い女が麻衣を迎えに来たそうだ。「川田さんの代わりに来た」と話したという。

麻衣に嫌がる様子も無かったらしい。

それを聞いた昭雄は真っ青になって、すぐ警察に連絡した。勿論、自分の足でもあちこち探し回り、出来得る限りの全てをやりつくした。だが、一週間近くたった今も麻衣の手掛かりは一向に見つからない。

昭雄も妻の幸子も憔悴しきっている。麻衣の無事をただひたすら祈り続けるしかなかった…。

そんな昭雄の元に、お手伝いの佳代が何かを持ってきた。

「旦那様、ポストにこれが…」

見ると、湿った茶封筒で切手も消印も無く、ただ「木下昭雄様」とだけ書いてある。昭雄は誘拐犯からだと直感した。

『木下昭雄様……汚い手口をお許し下さい…あなたの大事な人はあの場所にいます……ごめんなさい』

薄い筆跡に見覚えはなかったが、もしかすると昭雄の愛人だったうちの誰かかもしれない…。

あの場所……? あの場所ってなんだ。

昭雄はしばらく考えてから、幸子に「麻衣は大丈夫だ」とだけ残し、川田と家を後にした。

数時間後、昭雄と川田は人里離れた山中にいた。

昭雄にとって、「あの場所」で思い当たるのはここしかない。

そう、理恵子を埋めたこの山。

犯人の魂胆は見え見えだった。理恵子殺害の口止め料として大金をせしめる気だ。

麻衣を誘拐して、わざわざ警察に連絡させ、自分達に危険が迫らないよう昭雄を監視させたわけだ。

だがここで一つ疑問が残る。

一体、誰が3年前の昭雄の行いを知っているというのだ?

川田と二人で片付けたあの件を、川田自身がぺらぺらと第三者に喋ったか…?

いや、いくらなんでもその可能性は低いだろう。

川田だってほう助したのだ。罪に問われるのは間違いない。

3年前、理恵子が行方不明になって、一時疑いの目が昭雄に向けられたが、結局は理恵子自ら失踪した…という幕切れになったのだ。

昭雄には、やはり犯人の見当がつかなかった。

「面倒な細工をしおって。俺を馬鹿にするな…。お前も理恵子と同じ目に遭うだけだ……」

昭雄は完全に常軌を逸していた。

あの時のようにうろたえることはなく、しごく冷静に犯人が現れるのを待った。

…しかし、待てど暮らせど犯人はやってこない。昭雄はもう一度茶封筒から手紙を出した。

さっきは気付かなかったが、手紙にはまだ続きがあるようだ…

「あそこに着いたら…私……見つけて……下さい…」

途切れ途切れの文字。昭雄はそこまで読んで、全身の毛が逆立つのを感じた。

なんだ、こいつ…俺に理恵子を掘り起こさせる気か!?狂ってる……。

3年前だぞ!! 正確な場所なんか覚えてるもんかっ。

その時、突然川田が昭雄の前を横切り、こう言った。

「……社長…大変妙ですが、私なんとなくあの岩に見覚えがあります…。黒ずんだ大きな岩…」

川田が指を差す。確かに二人が立つ場所から20メートル程離れた所に大岩がある。

昭雄は走って岩に近づき、川田も車のトランクから用意しておいたスコップを出して後に続いた。

川田の記憶は正しかった……。

掘り起こした土がこんもりと山になる頃、青いビニールのような物が見えてきた。

もっと深く掘れば、理恵子の骨があらわになるはずだ…。

昭雄も川田も複雑な心境ではあったが、仕方ない、犯人がそうしろと言うのだ。きっと何処からか見ているに違いない。麻衣を無事取り戻せるなら何だってやってやる!!

しばらくして川田の手が止まった。

ビニール全体が露出している。

途端に3年前の若くはつらつとした理恵子が昭雄の中に蘇る。

「理恵子……君には本当に申し訳ないことをした…すまない……」

昭雄は小さく呟くと、ビニールをそっとめくった。

昭雄は言葉を失った………。

大きな穴の側で昭雄と川田が立ち尽くしている、その姿を後ろから鋭い目つきで見つめる者がいた。

穴の中に吸い込まれそうな勢いで全身が傾きかけている昭雄の肩を、誰かがぐいと掴み戻す……。

「木下昭雄、川田耕二」

昭雄が後ろを振り返ると同時に、そう名前を呼ばれた。川田も続いて首を後ろにひねった…。

いつの間にか、何人もの男に昭雄達は取り囲まれていた。

「沢村理恵子及び、木下麻衣の死体遺棄容疑で署まで同行してもらう」

「……!?……何を言ってる??」

「……一体、何を言ってるんだっっ!?」

…ひたすら混乱する昭雄の隣で、川田はよろよろと足元から地面に崩れ落ちていく。

川田は尋ねた。

「……社長…、どういう事か説明して下さい…。…ご自分で………ご自分でなされたのですか……」

刑事に両側から体を挟まれた昭雄は何も言葉が出てこなかった。

自分の目の前で起きている事なのに、全く現実味が無く夢を見ているようで、自分の体ですら、今どこにあるのか解らない状態だった。

実際はどのくらい時間が経過していたのだろう。いつしか穴の周りを取り巻く警官の数も増えていた。

皆、一様に中を覗き込むと、手で口を押さえ、なんとも苦い表情を浮かべている…。

「……鬼畜どもがっ」

一人の警官が怒りに震え、吐き捨てるように漏らす。他の者達も同じ思いだったに違いない。

掘り返された穴の中には、小さな小さな体を丸め、すっかり土色に変色した麻衣が横たわっていた…。そしてその隣には、変わり果てた麻衣をまるで大事な我が子を抱えこむかのように、白い骨と化した腕が覆いかぶさっていた。

ぼんやりと光る白骨の横でかすれた泣き声をあげる男は、暮れかかる山に影を落としていた……。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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