私が小学生の頃、夏休み中の話です。
田舎の祖母の家へ遊びに行った時のことです。
昼間、探検と称して、少し遠くの方まで一人で散歩に出かけました。
田舎と言っても、田んぼや畑だけというわけではなく、
そこそこ民家が建ち並んでおり、川沿いの舗装されていない道を歩いていました。
川の反対側には、私の背より高い生垣で囲まれた家々が並んでいました。
道なりに歩いていると、ふと生垣の切れ間から、民家の庭が目に入りました。
その庭の隅には井戸があり、その脇に車椅子に乗ったお爺さん、
そして隣におばさんが立っており、こちらに背を向ける形でそれぞれ並んでいました。
「日向ぼっこでもしているのかな」
と思い、通り過ぎようとした時です。生垣で再び見えなくなる直前、
急におばさんが、お爺さんを車椅子からヒョイと持ち上げ、井戸に落としたのです。
エッ!?と思った私は、踏み出した足を一歩戻し、生垣から顔を戻して、もう一度井戸の方を見ました。
不思議なことに、井戸の周りには誰もいませんでした。車椅子もありません。
少しパニックになり、茫然としていましたが、隠れる場所もないし、
逃げるにしても早すぎると思い、庭に入って井戸に近付きました。
よく見ると、井戸には蓋が乗せてありました。
施錠されていたのか、重しがしてあったのか定かでありませんが、
蓋は取れず、中を見ることはできませんでした。
しばらく井戸のそばにいましたが、よくよく考えると、
人殺しの現場を見たかもしれない、犯人に見つかって殺されるかもしれないと、
急に怖くなり、逃げるようにして帰りました。
家に帰ってから冷静に考えると、あの時、井戸に落としたのなら、水の音なり、
何らかの音がするはずなのに、自分の足音以外、全く無音だったことに気がつきました。
やはり夢か何かだったのかと思いましたが、夕方、祖母に何となく昼間の家のこと聞いてみると、
「あそこには寝たきりのお爺さんがいるが、最近は見ていない。」
とのことでした。
子供ながらに、そのお爺さんはもう生きていない気がしました。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話