「廃病院の巡視」を投稿した者です。
話の中に出てくる廃病院が、まだ現役だった頃の話をします。
うちの病院は、全部で10を越える病棟があります。
その頃、私がいた病棟には、ハイケアユニットと呼ばれる病室がありまして。
広い部屋に4床あり、ナースステーションの真横に位置していた。
そこには手術後間もなかったり、あるいは重篤な人が入るんですけどね。
実際、そこで亡くなった方も、多々いる。
ま……いちいち「誰か亡くなった部屋」とは意識してませんが。
で……
私がいた病棟、夜勤者は2人いた。
そのうちの1人として、私が夜勤をしていたときなんですけどね。
夜中の3時くらいだったか。
ハイケアユニットのAさんの点滴がなくなる時間だな……なんて思い立って。
交換用の点滴(厳密にはシリンジェクターという代物)を用意し、部屋に入った。
Aさんのベッドは、部屋に入ってすぐの位置だったんですけどね。
本来、重篤な患者は観察を容易にするため、カーテンは開けておくべきなんですが。
Aさんはとりあえず意識もあり、またナースステーションの小窓からベッドが覗ける位置にもあったため、この時はカーテンが閉められていた。
私はそのカーテンの中に入り、点滴を交換する。
ついでに点滴の刺入部位も確認しよう、漏れてたら厄介だ……などと、ベッド脇にしゃがみこみ、確認を済ます。
と……
カーテンの下の隙間から、誰かが部屋の奥に入っていくのが見えた。
あ~、夜勤ペアの先輩かな、なんて思いつつ。
とりあえず自分のやる処置を終えて、カーテンから出た。
そこでふと、部屋の奥に目をやる。
……さっき入ったばかりの先輩がいない。
…………なぜ?
急ぎナースステーションに戻ると、中にいた先輩に、先ほどハイケアユニットに入ったか訊ねる。
……案の定、入っていない。
ハイケアユニットに入室の患者は自力歩行は不可能、つまりトイレに行ってきたの何だのは有り得ない。
寝ぼけた他室の患者かとも考えるが、ハイケアユニットの真横のナースステーションにいた先輩は、部屋に入る足音を聞いていない。
他にも現実的な理由を考えるも、状況から全て否定されていく。
足の正体もわからぬまま、朝となり。
私が足を見かけたのも、それが最初で最後でした。
特に落ちも後日談もない話ではありますが。
人の生死に関わる場所には、日常の中にさらりと非日常が混ざり込んでくるという。
そんな話。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話