目をつむると、じいちゃんの姿がまぶたに浮かぶ。これは、慣用句ではない。
いつからか私は、目を閉じた暗闇の中に、スポットライトを浴びたようなじいちゃんの姿をはっきりと見るようになった。
知らないじいちゃんである。じいちゃんはまぶたの裏に住み着いたかのように、そこで暮らし、飯を食い、眠り、歯を磨き、笑っていた。
どこかの土地の誰かを、なにかの拍子に目覚めた超能力などによって、見ているのかと思ったが、どうも違うらしい。
じいちゃんはまぶたの裏にいつも一人だった。
日本の住人ではなく、まぶたの裏の住人らしい。
ほんの一瞬のまばたたきによっても、サブリミナルのようにじいちゃんの姿は見えるので、始めは欝陶しかった。しかし、これがなかなか愛嬌のあるじいちゃんで、私が落ち込んだ時などは、ひょうきんな動きで私を励まそうとしてくれることもあったのだ。
言葉は交わせず、ただ見ているのみの関係だったが、なんとはなしに通じ合っているように感じていた。
異変は起こった。
その日、じいちゃんの顔色は妙に青く、額には汗が浮かんでいた。
心配していると、その夜、じいちゃんは胸を押さえて苦しみ、もがき、やがて、動かなくなった。
死体はまぶたの裏、徐々に腐敗していった。腐れたじいちゃんに、私も食欲を無くし、眠れず、じいちゃんを恨み、どうにか慣れるまで、沈んだ日々を過ごした。
今ではじいちゃんは、完全な骨になって、まぶたの裏に転がっている。
墓の一つでも造ってやりたいが、これに関して、私は目をつむることしかできない。これは、慣用句ではない。
怖い話投稿:ホラーテラー 仮MELONさん
作者怖話