自衛官だった父が、ある航空機事故の救助に出た際の話。
被害者が特定できぬよう、ややぼかして話させてもらいます。
当時、中堅の陸曹だった父。
通信手として事故現場に派遣されました。
山腹に通信所を開設、そこで通信業務をしていたとのこと。
時期は8月、まさに真夏。
散乱したご遺体の状態は、推して知るべしといったところ。
現場に出ていた自衛官、夜はだいたいが下山して宿営をしていたのですが。
山中に装備品など置き去りにできるわけもなく。
何名かは監視役として現地に残り、そこの天幕(テント)で宿営をしていた。
派遣されて数日目。
この日、父はその監視役として、山中に残る役割となった。
当然、辺りには人家の灯りもなく。
発電機があるため、天幕内に灯りはつくものの、外に出ればひたすらに暗闇。
元来、心霊現象なぞ信じぬ父でしたが。
ご遺体が近くにあるやも知れない環境には、いささか不安を感じていたとのこと。
とは言え……そこで役目を投げ出す訳にもいかず。
起きているから怖いのだとばかりに、父は早々に寝ることとしました。
が。時は8月、さすがに寝苦しい。
せめて夜風に当たれればと、天幕の外に出て寝ることにした。
夜中。
ふと、目を覚ます。
と……何か、すぐ近くで物音がする。
ずる……
引きずるような音。
何かな、不気味だな……
寝転んだまま辺りを見回すが、なにも見えない。
ずる、ずる……
近づく気配。
おそらく、大きくはない何か。
しばらく考え……一つの結論を導く。
ああ。ヒキガエルだな。
幽霊なぞ信じぬ父なりの、現実的な考え。
再び目を閉じる父。
ずる、ずる、ずる……
そうこうしているうちに、気配はすぐ脇に。
ずる、ずる、ずる、ずる……
そして、寝転んだ体の上を這う。
ただ、ヒキガエルには毒があり、迂闊に払うこともできず。
閉眼したままじっとしていると、その何かは反対側へと降りていった。
ずる……ずる……
物音が遠ざかるのを聞き、父は再び眠りに落ちた。
翌朝。
目覚めた父は、自分のいた場所の脇に、あるものを見つける。
昨日までここで働いていて、気づかなかったもの。
手袋。
奇しくもその日、その近くの高木の枝にて。
後に手袋の持ち主と判明するご遺体が発見された。
あの夜中の気配……
早く見つけて欲しい彼の合図であったのか。
ならばもし、父が目を開けていたならば。
見えたのはカエルでなく……
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話