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中編3
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真夜中の老婆

今から10年前の夏、大学4年だった俺は、コンビニの深夜バイトをしていた。その店は、1時から朝の7時までが1人で店番というシフトだった。

住宅地のはずれにあったその店では、深夜にお客はほとんどこない。

特に2時から4時のあいだは数えるほどしかこなかった。

1人の店番は防犯上問題があるのではと思いつつも、気が合わない奴と2人でいるよりは1人の方が楽だった。2台並んだレジの隣に小さな事務所(発注システムとかがおいてある)があった。お客に迷惑をかけたり、不正をしたりしなければ、事務所内で夜食を食べたり、タバコを吸ったり、雑誌を読んだりすることが黙認されていたので、1人の時間も苦痛ではなかった。

さて、その日は土曜日だった。掃除や品出しなど一通りの仕事を終えた3時頃、いつものように事務所で休んでいると「ピンポーン」と音がした。この店ではドアを開くと音が鳴り、客の出入りを教えてくれる。

あわてて事務所を出ると、70代後半であろう老婆であった。きれいなほど真っ白な白髪。身なりもきれいだった。こんな真夜中に老婆1人でコンビニに来るとは珍しい。

俺はレジの前に立って品物を持ってくるのを待っていた。しかしその老婆は店内をうろうろするばかりで、なかなか品物を手に取る様子がない。(待ち合わせでもしているのだろうか・・・)このような客は好きではない。これが立ち読みする客であれば、事務所内でカメラを見て、レジに近づいた時に事務所を出ればよいが、このように店内をうろうろされていてはレジで待っているしかない。

俺は目立たないようにポケットから携帯電話を取り出し、当時流行っていた出会い系サイトの書き込みをチェックした。新着がないことを確認して携帯をポケットにしまった。その間約1分。店内に老婆がいないことに気づいた。店を出たのであれば、「ピンポーン」が聞こえるはず。(きっとトイレに入ったんだ)俺は事務所に入り、タバコに火をつけた。

タバコを吸い終える頃、「ピンポーン」が鳴り、20代後半くらいの男性が入ってきた。事務所を出ると明らかに酔っ払いだった。酔っ払いの客が一番たちが悪い。過去にはやたら絡んできたり、店内で寝てしまう人もいたのだ。(早く買って帰ってくれ)そう思っていると「トイレ借りるよ」と言い、トイレに入っていった。俺ははっと気づいた。(トイレには老婆が入っている・・・でも、誰かが入っていることに気づいてすぐ出てくるだろう)しかし、数分しても酔っ払いは出てこなかった。(もしや寝ているのでは)俺はトイレに向かった。

不思議なことにトイレの外に酔っ払いはいなかった。(おかしいなー)そう思っていると水を流す音が聞こえ、トイレから酔っ払いが出てきた。「あっ、ごめんごめん、気持ち悪くなって吐いちまった。便器の外にはこぼしてないから大丈夫だよ」酔っ払いは言った。

「いえ、そのことではなくて、トイレにお婆さんが入っていませんでしたか?」「誰も入っていなかったよ」「えっ、そんなはずは・・・」「それでは、お店に入る前に白髪のお婆さんを見かけませんでしたか」「見なかったよ」

俺はきつねにつままれたような気持ちになった。

携帯をいじっていたので、老婆が店を出たことに気がつかなかったのだろう。そう納得するようにして、このことは気に留めなくなった。

それから1ヶ月以上が過ぎたころ、たまたま交番の前を通りかかったとき俺は心臓が止まりそうになった。行方不明者の張り紙にあのときの老婆の写真があったのだ。それも行方不明日があの土曜日の夜だったのだ。

俺は店長にその事情を話して、防犯カメラの映像を見せてもらえるように頼んだ。映像であれば何かを写しているはずだ。しかし、残念なことに1ヶ月以上前のものはもうないとのことだった。真相はうやむやになってしまった。

あの日の出来事はいったい何だったのだろうか。そしてあの老婆は見つかったのだろうか・・・。今でもたまに思い出す。

怖い話投稿:ホラーテラー 航さん  

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