とある深夜。
私は、今日も残業を終えて家路につく。
腕時計を見ると、既に零時近い。
静まり返った住宅街はなんだか不気味で、足取りは無意識に早足になる。
途中、小さな公園に差し掛かる。
昼間なら、近所の子供達が集まって遊んでいる、遊具や砂場のあるごく普通の公園。
背の高い時計が印象的なその公園を私は通り過ぎていく。
カチ
妙に大きな機械音に、私の足がはたと止まる。
公園の方を見ると、電灯に照らされて薄黄色く光る時計の盤面はちょうど午前零時をさしていた。
私は気に留めず再び歩き出した。
そのとき、どこから現れたのか、長い髪の女性が向こうからやってきてすれ違った。
顔が見えないくらい俯き、ぶつぶつとなにやら呟いていて不気味だったので、私は知らない内に小走りになっていた。
――1Kの自宅アパートに帰宅して早々に、私はシャワーを浴びた。
スエットに着替え、ショートカットの黒髪を手早く乾かし、冷蔵庫に常備してあるペットボトルの水を飲む。
ふと目をやった時計は、午前零時をさしていた。
『壊れたかな』
呟いて、いつもつけている腕時計を見る。
――午前零時
テレビを点ける。
点かない。
携帯電話。
午前零時。
友達に電話をかけてみる。
…圏外だ。
こんなことは今までにない。
そういえば、帰ってくるまでに一度も人や自動車とすれ違わなかった。
いや、正確には、『長い髪の女性以外』は。
気付いた瞬間に、恐怖と共に吐き気を催した。
トイレに駆け込むと、便座を上げて屈み込む。
口から出てきたのは、赤茶けた髪の毛だった。
それも、喉の方でまだ繋がっている感触がある。
よほど長いのだろう。
よだれにまみれた髪の毛と共にまもなく現れたのは、人の頭。
額、眉と徐々に姿を見せたそれは、目元まで出たところで私と目が合った。
叫ぼうにも声にならず、鼻水を垂らして泣きながら暴れる私に、それは剥き出した白目を細くしてニタァと笑った。
私は汚物を垂れ流して失神した。
――翌日。
汚物で汚れた体を洗い流し、出社用のスーツに着替え、赤茶けた髪を束ねた私はアパートを出ると、いつも通りに隣人に挨拶をする。
『ヒッ……!!』
短く悲鳴をあげ、腰を抜かしてはいずるように逃げる隣人に、私は訝しげに裂けた口角を曲げた。
昨夜の公園の前には、女性のシルエットを象った、黒いカサカサの殻のような物が落ちていた。
怖い話投稿:ホラーテラー 旋律さん
作者怖話