先日『鈍すぎると言う事。』を投稿した者です。
友人A子から許可が出たので、彼女の祖母の話を投稿します。
A子の母方の家系の女性は代々霊感を持って生まれてくる様で、曾祖母の代までは拝み屋みたいな事もしていたらしい。
A子祖母も、母である曾祖母の仕事を度々手伝っていたそうな。
そんなある日、曾祖母の不在中に彼女を頼って一組の親子が訪れた。
庄屋である父親とその息子が敷居を跨いだ時、A子祖母は何か嗅ぎ慣れた生臭さを感じたらしい。
不在の曾祖母に代わり話を聞くと『女の悪霊に悩まされている。』と言う内容のものだった。
村長の息子に惚れた16歳の女中が、今で言うストーカーの様なものになってしまったらしく、一族で迷惑していたと言う事。
息子には縁談も決まっていたので、已む無く追放した所、村外れで自害しているのが見つかった事。
それ以降、家の中で一部を除く女性だけに、その女の幽霊が見える様になったと言う事。
ぷっくり肥えた顎肉を震わせて、さも参ったと言う風に父親だけが話し続けた。
「女中達は怖がって仕事になりませんし、このままじゃコレの嫁も迎え入れられない。どうか曾祖母先生のお力添えを。」
代わりに話の聞いていたA祖母は困惑したらしい。
何故なら何も『見えない』のだ。
けれど、先刻嗅いだ生臭さがどんどん立ち込めて来る。
結局、その日は曾祖母の戻りが遅くなると言う事で親子は帰路についた。
曾祖母が戻って来たのはすっかり日も暮れた頃。
出迎えたA子祖母が何かを言う前に、曾祖母は不機嫌そうに言った。
「今日は客人が来たのね。」
A子祖母は少し驚きつつも、今日の来訪者の相談事を全て曾祖母に伝えた。
曾祖母は終始眉間に皺を寄せ、怒っている様な、でも悲しんでいる様な表情で話を聞いた。
最後に『ふぅ』と小さく溜息をつくと、親子に断りの文を出すようA子祖母に指示した。
『理由は何でも良い。手に負えないと言う理由でも良い。もし再び訪れるような事があっても決して関わるな。』と。
「人の業が怨念を生む。怨念が悪霊を生む。げに恐ろしいのは人の心。自分達の業を隠匿する様な人間には相応しい末路があるのよ。」
「隠匿?あの親子は何かを秘密にしているの?」
「あなたもあの臭いを嗅いだのでしょう?きっと息子に染み付いていたあの臭いは」
月経の血の臭いに、とても似ていた。
「結局、ひぃおばあちゃんは断固としてその依頼を受けなかったし、おばあちゃんに対しても多く語らなかったみたい。結局、その親子がどうなったかも分からず仕舞いだし。」
A子は焼酎の中に沈めた梅をマドラーでぐりぐり潰しながら教えてくれた。
「でもね、おばあちゃんも今なら分かるんだって。ひぃおばあちゃんの言葉の意味を。」
「つまり?」
「おばあちゃんから直接答えを聞いた訳じゃないんだけどね。おばあちゃんももう亡くなっちゃったし、推測にしか過ぎないけど・・・・女中はストーカーでもなんでもなくて-」
「わー、みなまで言わんで!気分悪くなりそう!」
わぁわぁ言いながら、A子の話を遮る為に彼女のグラスに並々焼酎を注いだ。
「おまww零れるwww」
そう、本当の事など今となっては分からない。
ただ私も思ったのだ。
被害者は息子ではなく、悪霊に仕立てられた女中なのではないかと。
二人が嗅いだ月経の血に似た生臭さは、手篭めにされた破瓜の時のものではないんだろうか。
そして、これこそ完全に憶測だが、女性にしかその女中が見えない中で、それでも一部の女性が見えなかった理由は、破瓜を迎えた者とそうでない者の差だったのでは?
当時15・6歳だったA子祖母が破瓜を迎えている訳はないので、だから息子と直接対峙しても何も見えなかったのではないだろうか?
既に『女』である女性達の前に姿を現したのは、自分の痛みを分かってくれるのではと思ったのかも知れない。
今となっては、誰にも分からないが。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話