(前置き)
『憑いてるホテル』を投稿させていただいた者です。
メモ帳に書き溜めていた話が二つありまして、最初どちらを投稿しようか迷っていたのですが、反応的に実話を好まれる方が多いようですので、ついでにこちらも投稿してみます。再度のお目汚し、お許し下さい。
(前置き2)
この話は今から9年前、当時、私が遠距離恋愛でつきあっていた沖縄の女性が見たことをまとめたものです。(『憑いてるホテル』の彼女とは別の女性です)
どうも私は霊感が強い女性とおつきあいする傾向が少なからずあるようでして。
まあ、それはともかく今回の話は日本国内で二つある被爆地、広島県か長崎県のどちらかでの話だと思って下さい。
昨日、沖縄の終戦記念日だったこと、また昨今、問題になっている福島の原発事故、そういったニュースを見るにつけ、昔を思い出し、皆様にも知っておいていただけたらなあ、と思った次第です。この話は怖いというより悲しい事実です。
私の生まれ故郷は、被爆地です。
毎年、その日が来ると原爆の投下された時間に黙祷しますし、小学生の頃から学校でも平和教育を学び、戦争というものの善悪は抜きにして、核兵器がいかに悲惨な現実をもたらすか、ということを教えられてきました。
ですから、よく『○○の怖い話』といった体験談などに、被爆地のホテルに泊まったら原爆の被害者の霊が現れた!などという話がよく載っていますが、そういうのを読むにつけ、怒りを覚えていました。
私自身、地元に長年住んでいますが、被爆者の霊に出会ったとか、そういう経験がありませんでしたし、なんか被爆者の霊が云々っていう話を聞くと、犠牲者が面白ネタにされてるみたいで非常に不愉快な気分になります。
さて、そんな私ですが、一時期、仕事で沖縄に頻繁に行くようになり、その時に知り合った、地元の女性に一目惚れし、ダメモトで告白したところ、幸運にもおつきあいすることになり、遠距離恋愛をしておりました。
あれは彼女を初めて私の地元に呼んだ時のことです。季節は春。桜が満開の頃でした。
彼女がぜひ平和公園に最初にお参りに行きたいと私に言いました。
私が沖縄に行った際も、彼女は観光スポットだけではなく、日本国内唯一の地上戦があった沖縄県内の慰霊的な場所にも私を連れて行き、核兵器とはまた別の悲惨な戦争の実態を学ばせてもらったりしていたのですが、そんな彼女ですから、この申し出を快く了承し、真っ先に平和公園に案内しました。
季節柄、平和公園内の桜が満開で、沖縄とは趣が異なる桜に彼女も非常に感激していたのですが、資料館を見学し、慰霊碑にお参りする頃には、様子が違ってきていました。顔色がすごく悪いのです。
「大丈夫?歩きすぎたかな?少し休もうか?」
「ううん、大丈夫だから。たまにこういうことあるから気にしないで」
そういうやりとりを交わしたのですが、見るからに体調が思わしくなさそうだったので、早目に切り上げ、市内の中心部に食事をする為に移動しました。
中心部に到着し、どこで食事をしようかと思案しながら歩いていたのですが、あるポイントを通りかかった時に、彼女が突然、
「ごめんなさい。私、今日はちょっとこれ以上、この辺りにいるの無理みたい。あなたのお家に帰りましょう?」と脂汗を流しながら言うのです。
私はこれは慣れない土地に来て、相当、疲れているのだと思い(同じ時期の沖縄に比べたらずいぶんと寒いですし)、彼女の言うとおり、タクシーを拾い、すぐに自宅へと帰りました。
私の両親はせっかくの久々のデートにもかかわらず、早い時間に帰って来たことにびっくりしていましたが、彼女が体調を崩していることを知ると、納得して彼女を休ませる為に布団の用意などもしてくれました。
しかし、私の自宅に戻った頃には顔に赤味がさし、ずいぶんと体調も回復したようで、横にはならず、居間で休んでいましたが、彼女がふと、
「ごめんね、急にこんなになって。でも私見るに耐えなくて・・・」と、突然、語り始めたのです。
その時になって私は「ああ、そうか。こいつは見える体質だったんだ!」と思い出したのですが、0感の私にはさっぱり彼女に何が見えたのかなど理解できません。
彼女は自分に見えた光景をぽつりぽつりと語り始めました。
「あのね、平和公園は・・・まだよかったの。あそこはきちんと供養されている場所だし、あそこに集まっている人たち(犠牲者の霊魂)も、自分が死んでいることを認識した上で、しかるべき時(要するに成仏できる時)を、おだやかに待ってるのね」
「でも、あの後、行った場所。たぶんね、原爆投下直後に犠牲者の人たちを、まとめて焼いた場所だと思うの。そういう空気が感じられて・・・」
私は彼女の話に半信半疑でしたが、「え、じゃああの辺りは公園内と違って、原爆投下直後の悲惨な姿で、色んな人たちが漂ってるの?」とたずねました。すると、
「ううん。そういうわけではないよ。ただね、みんな生前の姿でそこに立ったり、座ったりしているの。戦時中の国民服やもんぺなんかをはいて。要するに原爆で自分が一瞬にして死んでしまったことがわかってないのね。だから、生前の姿のまま何十年もその場所にとどまっているのね」
「あの人たちが見えたらね、あの人たちはね、もう怖いとかそういう次元じゃないよ。ただただ、本当にかわいそうで・・・私には見えてもあの人たちを導いてあげることはできないんだものね。そう思ったら申し訳なくて・・・」
彼女の意外な告白に地元民である私は、うなずくしかありませんでした。たしかに原爆投下直後に一瞬にして焼き殺された方々は大勢いたわけですから、もし自分がその立場でも、死んだことがわからずに、霊魂となってもその場に立ち尽くし続けるかもしれない、と思いました。
その後は、何事も無く彼女も私の地元を楽しんでくれたのですが、一緒に歩きながら彼女が話すには、
「あのね、前にユタ(沖縄の女性祈祷師)の人に教えてもらったのだけど、人間の魂って、たとえ不慮の死であっても50年を周期に(個人差はあるみたいですが)成仏していくんだって。だからあのかわいそうな人たちもきっと、もう少ししたら救われる日が来ると思うんだ。私たちは本当に幸せよ。こんな平和な時代に生かされてるんだから」と言ってました。たしかにそうだよなあ・・・
だから普段はいーかげんな私も、その時の彼女の話を思い出すと今回の東北大震災の状況を見聞きするにつけ、生かされた我々は、生きたくてもそれがかなわなかった方々のぶんも精一杯生き抜いて、日本をもっといい国にしていかなければ!と思うのです。
(今回のオチ)
そんな優しくて、美人の自慢の彼女でしたが、それから3年後、優柔不断な私に愛想をつかせて別れてしまい、今では沖縄で他人の奥さんになっています。
おしまい。
怖い話投稿:ホラーテラー だが、それがいい!さん
作者怖話