あの日はとてもクソ暑い夏の日だった。
俺の家は夏には百足がわんさか、大人の手のひら程もある馬鹿でかい蜘蛛が毎日出没すると言うクソ田舎の中の更に山奥の団地に有った。
その日俺は、友達のけんちゃんと前々から計画していた有る計画を実行しようと朝から2人で準備をしていた。
けんちゃんと言うのは、一つ上の友達で小さい頃から何かと悪さをするにはいつも一緒にいた近所の幼馴染。
その有る計画の発案者も、もちろんけんちゃんだった。
有る計画とは、一ヶ月程前に何故か逃げる様にして団地を出て行った家族が居たんだけど、その家は今もまだ空き家になっていて、その家を秘密基地に改造して俺等の城を作ろうぜ的な何とも夢があふれる計画だった。
当時小学生だった自分たちには悪いことなんだろうなぐらいには思ってたけど、秘密基地を作ると言う巨大な野望の前には家宅侵入など大した問題では無かったんだ。
「あっちーなぁ!かつを。」
「仕方ないやん。夏やもん。」
「それにしても暑すぎるわ。」
「もうすぐ夕方やしあの家に入ったらもう少しマシになるかもよ?」
「それもそうやな!ところでまだあそこ鍵空いとったか?」
「便所の窓やろ?大丈夫!昨日学校帰りに見たら鍵空いとったよ!」
「そしたら、もういい加減暑いし作戦開始せん?」
「そうやね!行こか!」
俺達は人の目を盗んで、誰にも見つからない様慎重にその空き家に近付いた。
「よし!じゃあかつを俺から行くで!」
けんちゃんはそう言い器用に便所の窓を開けてするすると体を滑り込ませた。
よし!じゃ今度は俺や!
そう思ってあたりを見回し誰もいない事を確認すると自分も便所の窓に体を滑り込ませた。
「よっ!と、けんちゃん?けんちゃーん?」
「おぅ!ここにおるで!」
お互い外にばれてはまずいと小声でよびかけあった。
「何か臭くね?」
「うん。ちょっと臭いね。てか便所やしね。」
俺たちの団地は汲み取り式では無い物のまだバキュームカーが全盛のど田舎だったので正直トイレは臭い。
これはどうにも仕方の無い事なので、気にせず先に進もうと言う事になった。
「おい、かつをー部屋の中もやっぱりあちーなー!あとやっぱりちょっと臭くねーか?」
夕焼けの日が刺す家の中でけんちゃんは言った。
確かに家の中は当然と言えば当然だがカーテンも無く日を遮る物も無い。
もちろん家具も無いし、電気も無いから普通の家より断然暑い。
そして、何よりやはりけんちゃんが言う様にちょっと臭かった。
まるで生ゴミが腐った様な匂い…
「うーん。確かにちょっと臭いかも。トイレ腐っとるんかなぁ。」
「ちょっと秘密基地にはきついかな?どうするかつを?」
「でもせっかく入ったんやしもう少し見てみようよ。」
そう言って2人で一つづつ部屋を確認していった。
「おっここはそんなに暑く無いかも!あんまり臭く無いし!ここ俺の部屋~!」
「えー!そんなんズリーわー!俺もここがえーわ!」
人の家に勝手に侵入して自分の部屋も何も有った物では無いが…
「かつをは台所行けや!あっこも涼しかったやん!」
「嫌や!あっこゴキブリホイホイそのまんまやったし覗いたら何か動いてたもん!」
「まぁ部屋は後で決めようや!まだ見てない部屋あるし。」
俺は渋々頷くと、けんちゃんと次の部屋に向かったんだ。
その家は平屋でそんなに広く無い。
だから次の部屋と言っても其処が最後だった。
次の部屋に行くと、何時の間にか日は傾き、薄っすらと部屋の中の様子が見える程度の暗闇になってた。
「うわ!この部屋くせーぞ!何でや!?トイレ反対やのに」
「ほんまや!なんなんここ!くせ~!」
「あちー!こんなに臭くてあちーとか最あっ!」
ずぼっ!!
その時目の前に歩いていたけんちゃんが鈍い音と共に一瞬で消えたんだ!
「うわぁ!おい!かつを!ここ穴がある!俺どうなった!?」
けんちゃんの声と共に一層きつくなった匂いが辺りを包み込んだ!
「けんちゃん!けんちゃん!どうしたん!」
「懐中電灯つけてくれや!何かおる!」
慌てて俺は持って来てた懐中電灯をけんちゃんの消えた方に向けたんだ。
そして其処に有る光景を見て俺は絶句した!
もちろんその渦中にあるけんちゃんは泣き叫んだ!
其処に有った光景とは、今でも思い出しただけで吐き気がするんだけど、けんちゃんは腐った畳を踏み抜いて床下にまで落ちていた。そして、頭から身体中が黒くなって何かが蠢いていたんだ。
そのうごめく物に目をやるともう何が何やら俺はパニックになった!
其処には無数の蛆虫が頭の上や身体の至る所で身をくねらせていたんだ!
其処からはどうやってけんちゃんを助けたか、良く覚えて無いんだけど何とかけんちゃんを引きずり出してその家から逃げ出し泣きながら家に帰ったんだ。
その後親たちにこっぴどく叱られたけどけんちゃんがドブに落ちたとか言ってごまかして、今日の事は誰にも言わなかった。
だって言ったら怒られるしね。
後で不思議な事に気が付いた。
蛆虫って動物や何かの死体に湧くよね。
あの腐った畳の形丁度小動物か、小さな子供位の大きさに腐ってた。
あの家犬も猫も飼ってなかった。
小さな子供もいなかった。
俺たちがあの家に忍び込むまで完全に密室だったのに、動物ならどうやって忍び込んだんたろう。
それとも…
その後その家は誰も住み手が無いままに草ぼうぼうになって荒れ果てて行った。
俺たちもその事が有ってから一切近寄らなかった。
噂で聞いたんだけどその家夜になるとなんか人魂みたいなのが見えたとか言う人たちが現れ始めたらしい。
「なぁなぁ、かつお。お前懐中電灯どこやったん?」
「あ、俺あの家に置いて来たかも…」
人魂ってもしかして…
小学生の頃の暑い一日の思いで。
怖い話投稿:ホラーテラー かつをさん
作者怖話