中編3
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マリーの知らせ

私が生まれるずっと前の話です。

父は若い頃、実家でマリーという犬を飼っていました。父の姉が友人から譲ってもらった子犬です。

マリーは雑種でしたが、特別しつけをしなくても手のかからない、大変利口な犬でした。

忠犬ハチ公ではありませんが、父が学校から帰宅する時間が近づくと、マリーは走って迎えに出ていたそうです。

家族皆に可愛がられていたマリーですが、殊、父にはよくなついていました。

父曰く、「マリーは自分を犬だとは思ってないようだった。隠れんぼは上手かったし、父さんが朝遅くまで寝てると、階段上って部屋まで来て、布団を引っ張ったりして、まるで兄弟みたいな存在だったよ…」

父もマリーが大好きだったのは、ウチにある数多くのマリーの写真でわかります。全て父が撮った物らしいです。

薄茶色の毛で小柄、顔立ちも整った、本当に愛らしいワンチャンなので、私も幼心に「ウチにもマリー欲しいよ〜!!」と父にすがった記憶があります。

残念ながらマリーは私が誕生する何年も前に亡くなっているので、本物には会えていません。

父はどちらかと言えば、科学的思考の持ち主で、超常現象等の類はあまり信じない人です。

ですが、その父がマリーの亡くなった時の、少しだけ不思議な話を私にしてくれました。

父は結婚をして、自分の所帯を持ちました。ただ、仕事柄転勤が多く、実家とは遠く離れた場所に住むことになった為、なかなか帰省出来ずマリーともほとんど会えなくなっていったそうです。

ある日、祖父が孫(私の姉)の様子を見にか、訪ねて来ました。

遠方からなので、数日泊まってもらう予定で、わりとのんびり過ごしていたらしいのですが、突然、祖父が激しい腹痛を訴え始めました。

母はあまりに急な事で動転し、救急車を呼ぼうとしましたが、祖父は「大丈夫だから…このまましばらくじっとしとるから…」

とうずくまって、救急車を拒みました。どのくらい経ってか、祖父の痛みは治まり、父も母も安心したようです。

次の日、祖父は実家に無事帰りましたが、その夜、祖父から父に電話がありました。

「…今日、マリーが死んだわ。わしが家に着いた時にはもうぐったりしとって…。マリーって呼びかけて撫でてやったら、口から血吐いたんよ……。

おばあが言うには、昨日、マリーがめちゃくちゃ苦しんで鳴き声あげとったらしいわ。しばらくしたら大人しなったって…。

わしが帰ってくるまで、マリーは最後頑張っとったんじゃないかと思うわ。

血吐いてから、マリー、動かんようなって。…死んだんよ…」

祖父の言葉を聞いて、父は胸がきゅーっと詰まる思いをしたそうです。

父が実家を離れた後、マリーを可愛がったのは祖父でした。

十数年、父の一家と過ごし、文字通り、家族の一員となったマリーは、最期を最愛の人に看取って欲しかったのだろうと思います。

祖父が腹痛を起こした時間帯とマリーが苦しんでいた時間が偶然にも一致していたのは、母と祖母の電話で判明しました。

動物には不思議な力があると聞きます。

この話が「虫の知らせ」なのか、本当に偶然の一致なのか(それだとしてもスゴイ)わかりません。しかし、動物は言葉を発せない分、感覚的な何かは人間より遥かに優れているのではないでしょうか。

この話を聞いたのは、もう随分昔で、幼かった私は、ひたすら「わ〜ンッッ、マリーが可哀相だよーっ!!」なんて、泣きじゃくっていたのですが、途中で捨てられる事なく、最後の最後まで家族に愛されたマリーは幸せな生涯だったのだなぁ…と嬉しく思います。

動物を飼うというのは、その動物と生涯を共にすること。

なつかないから…とか、飽きたから…とか、そんな勝手な理由で簡単に捨ててしまう人間がいるのをニュースで観ると、なんとも悲しく、切ない気持ちになるのでした…。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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