あるところに一人の孤独な人間がいた。
男なのか女なのか、歳はいくつなのか、誰も知らない。
世間はクリスマスムード一色だが、そんなもの奴には関係なかった。
家に帰り、携帯電話をいじっている。机の上のパソコンは調子が悪そうだ。修理に出すのさえ、もはや面倒臭くなってしまったのだろう。
別に構わないらしい。ケータイで充分事足りているのかもしれない。
奴はなにやら一生懸命指を動かしている。時々、頭を撫でながら考え事でもしているのか、指が止まる。
そして、また何か思いついたように、ひたすら両手の親指を細かく動かしている。
私はそっと奴の頭の上から、一体何をしているのか覗いてみることにした。
ほぉ、どうやら長々と怖い話を書いているようだ。
満足げにうっすら笑っている。
そのまましばらく奴の行いを観察してみた。当然、奴は私の存在に全く気付いていない。
奴がチッと舌打ちをした。
ケータイ画面を見ると、他人の書いた怖い話が表示されている。なかなかポイントが高い作品のようだ。
奴は不満そうにキーを押した。ナニナニ、『BAD』と書いてあるぞ。
んっ!?また『BAD』か?あら、また『BAD』……『BAD』…『BAD』……。
おっ、やっと『VERRYGOOD』を押した。奴の気に入る作品がようやく出現したのか。
それなら私も一読してみるかな。
……なんだ、この話、奴がさっき一心不乱に書き続けていた怖い話じゃないか………。
私はいたたまれなくなって、その場から姿を消した。
可哀想なアヤツにどうか幸あれ……。
怖い話投稿:ホラーテラー サブレさん
作者怖話