ピンポンパンポーン…
『本日は○○店にお越し頂き、誠に有り難うございます。
お客様にお連れ様のお呼び出しを致します。
○○市からお越しの△△様。
○○市からお越しの△△様。
××様がお待ちです、至急サービスカウンターまでお越し下さい』
ピンポンパンポーン…
私は当時、デパートで受付嬢の仕事をしていた。
デパート内の道案内から店内アナウンス、落とし物のお預かり…意外と忙しい。
―カチャッ
「あ、お疲れ~♪」
「お疲れ様です!」
館内放送を終え、Yさんが放送室から出て来た。
「相変わらずYさんの声は聞き取りやすくて、綺麗ですね~」
「そう?有り難う、ウフフッ」
それから他愛の無い話をしていたのだが、お客様が数人来た為、私達はそれぞれ対応する。
暫くすると、一人の男性がキョロキョロしながらやって来た。
「お…おい…っ!!」
「いらっしゃいませ」
少し様子が変だったが、私はいつも通りの挨拶で返す。
「さ…さっきの…呼び出した女…っ!!」
…少しどころじゃない。
明らかに挙動不審な男の目は泳ぎ、何かに怯えて焦っているかの様にも見えた。
「ど…どういう事だ…っ!!」
放送をしたのはYさんで、私はその呼び出しを依頼したお客様を見ていない。
Yさんはまだ別のお客様を相手している。
男はその間、
「どうして知ってる…」
「誰にも見られて無い筈だ…」
「…の女…生き……筈…無い…」
最後の方は良く聞き取れなかったが、余裕の無い血走った目でブツブツ呟きながら男は去って行ってしまった。
「(…変な人だったなぁ…)」
と、男の背中を見送っているとYさんがお客様の対応を終えた様だったので、
「あ!Yさん、さっきの放送のお連れ様らしき方が…」
私が言い終わる前にYさんは、
「あぁ~、良かった!ちゃんと見つかったのね、逢えた逢えた!」
「…えっ!?」
「あんなに抱きついちゃって…彼も真っ赤じゃないの!アハハッ」
…私にはどう見ても、挙動不審の男が鞄を抱えて背中を丸め、逃げる様に去ってく姿にしか見えない。
「お客様は神様仏様…ってね。ぞんざいに扱うと罰が当たるよ~」
Yさんの言葉の意味を私はまだその時、理解出来なかった。
「あら…次は迷子のお知らせが必要だね」
Yさんは何も無い空間に目線をやると放送室へ姿を消した――
※この物語はフィクションです※
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話