初めて投稿します。
私は生まれつき霊を見る事は勿論、そういう者の声を聞くことも気配を感じる事も出来ません。
いや、性格に言うと出来ませんでした。と、言った方がいいでしょうか。
19歳の時でした。
当時、大学2年の私は同じサークル内の女性とお付き合いをする事になりました。
男子ばかりの工業高校出身の私は、それまで女性とお付き合いをした事もなく、初めて出来た、ひとつ年上の彼女の虜になりました。
付き合って日も浅い時の事です。
デート中、おおきな池がある公園のベンチに腰掛けていると、彼女は私との話をよそに何もない池のほとりを眺めています。
そしてその表情は段々と怪訝な物に変わります。
私が体調でも悪いのかと問うと、何でもないの一点張り。
またある時は、ドライブ中に急に悲鳴をあげる始末。
彼女に霊感があると気付くのに時間は掛かりませんでした。
私が彼女に霊感があるのか聞くと、だまって頷きます。
よくよく話を聞いてみると、幼い頃から霊を見てしまう体質らしく、母方の祖母から譲り受けた力だと教えてくれました。
素直に話してくれた彼女に対し、私は気持ちが悪いなどの感情は湧かず、ただこれも彼女の個性のうち、受け入れようと自然に思えました。
彼女自身も特別な力に逆らう事なく、たまに気分が悪くなったりするだけで、生活には支障がないと受け入れているようでした。
彼女との交際を始めてから半年、私と彼女はついに結ばれました。
そこから私の身体に異変が起こりました。
初めは幻聴や幻覚だと思っていたのですが、どうやら彼女の力を分け与えられてしまったみたいでした。
それからは疲れがたまったり、寝不足の日などに見えない者が見えるようになりました。
見えてしまうのは、場所や時間に関係なく、時には歩行者信号機の上に座る老婆や水族館の水槽で浮遊する男性、果ては落武者までバラエティにとんだ彼等を見てしまうのです。
そんな私が体験した中で一番気持ち悪かったお話をしたいと思います。
前置きが長くなり申し訳ないです。
それは彼女と付き合って1年が過ぎた頃でした。
20歳を過ぎ、お酒を覚えた私は大学の友達と3人で居酒屋へ飲みに行きました。
3人で馬鹿騒ぎし、ベロベロになってしまいました。
その飲み会の帰りです。
最寄り駅まで3人で歩き、友人達は電車で帰るようでしたが、私はそこから徒歩で帰る事にしました。
駅から自宅までは10分も掛からない距離でしたので、節約の為にそうしたのです。
酔いも少し覚め、良い気分で駅前通りを自宅に向かって歩きます。
駅前通りは人も多く、まだ複数の飲食店が営業していましたので、道も暗くはなかったです。
駅前通りから左折し、自宅に向かうと、人通りも少なくなり、街灯もまばらになってきました。
そして、更に細い路地を使って自宅に向かいます。
自宅まであと100mという場所に差し掛かった時に、不意に尿意を覚えました。
目前で自宅なのにも関わらず、私は酔っていた為に迷わず、用を足せる場所を探しました。
すると古いアパートがあり、そのアパートと塀を隔てた所が空き地になっていました。
空き地は家一件分くらいの大きさで、膝より少し高い位置まで雑草が茂っていました。
私は迷う事なく、空き地に入り、ちょうどアパートの塀に向かって用を足したのです。
塀は私の目線より、若干下までの高さで、用を足しながらアパートの中通路辺りを眺めていました。
すると1番奥の部屋の玄関前にあり得ない光景を見たのです。
身長が2m以上あるのにも関わらず、ガリガリに痩せた女(こちらに背を向けていましたので顔はわかりません)らしき人が、昇龍拳をするかのようにジャンプしていました。
それも何度も何度も。
顔は見えませんでしたが、髪型と格好で女だと直感的に思いました。
その女は、私が用を足している間、幾度となく昇龍拳を繰り返しています。
中通路はコンクリートなのに、着地の音がしていませんでしたので、あれがこの世の者ではないと確信しました。
あの女が何故、昇龍拳の様に拳を突き上げて、ジャンプを繰り返していたのかはわかりません。
しかし、髪を振り乱し、ブラウス姿で昇龍拳を繰り返す大女の姿に恐れおののいた私が、トランクスを少し汚したのは言うまでもありません。
fin
怖い話投稿:ホラーテラー 赤い軍手さん
作者怖話