ここは小さな街のレストラン
オーナー自らが材料を調達、厳選された素材を使った料理はどれも美味しいと評判の店だ。
「昔、口うるさい美食家を私の手料理で唸らせた事があるんだよ」
…これはオーナーの自慢話であり、僕はもう何度も聞いている。
「ありがとうございましたー」
最後の客を見送り、閉店作業に取りかかる。
まだ修行中の身で、皿洗いしかさせて貰えない僕は何十枚と重ねられた皿と格闘していた。
「…最近オーナーの機嫌良いよなぁ」
厨房では明日の為に、野菜の仕込みをしているシェフ達の会話が聞こえてきた。
「あ、知りません?オーナーの奥さん…出産が近いんですよ」
「え、そうなんだ!」
―その話は僕も知っていた。
オーナーはバツイチで、今の奥さんは昔ここで一緒にバイトをしていた人だ。
「この間、偶然会ったんだけどさ…やっぱ妊婦って人一倍食べるのかな?…すっかり変わっちゃってたよ」
「あはは…幸せ太りってやつじゃないのか…?」
それから彼らの他愛の無い会話は進む。
「おい皆、聞いてくれ!」
と、そこへ上機嫌のオーナーが入って来た。
「私がかつて美食家に出した自慢の一品…その料理に使った肉がもうすぐ手に入る事になったんだよ!」
オーナーは嬉しそうに話し出した。
「それも今回は少し余分に手に入りそうでね…これも私が手塩にかけて愛情タップリに育てた結果だろう。…そうだ、肉が手に入ったらお前達にも食べさせてやろう!」
周りから歓喜の声が上がる。
美食家が唸る程の料理…
一体どんな味がするのか楽しみだ――
※この物語はフィクションです※
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話