今回は心霊とかそう言う話しでは有りません。
あれは私が専門学校生の時でした。
その日私は友人の町田と町田のマンションの前の道路の縁石に腰掛けて、他愛無い話をしていました。
時間は夜の9時から10時位だったと思います。
「なあ、町田。来年卒業やけど、自分どうすんの?」
「叔父さんが何か金属加工の工場やっててな、其処行こうかな思うてるわ。」
そんな様な話しを一時間程していたでしょうか、その時2人の目に有る光景が飛び込んで来ました。
「おい、磯野…あれ。」
「おぅ…何やあれ?」
それは向かいのマンションの4階辺りでしょうか、ヒラヒラとしたノースリーブでピンク色のワンピースを着た女の人が何か棒の様なものを持って鼻歌の様なものを唄いながら踊って?いました。
そして暫く見ていると不意に目が合った様な気がしました。
その時私は、何かヤバイなぁ、ちょっと普通じゃ無いっぽい。
酔っ払ってるんやろか?
と思いながら町田と2人で様子を伺っていました。
そうしているうちに、その女の人はふらふらと危なっかしい足取りで階段を一段そして、又一段と降りて来ました。
「おい磯野…あれ、やばいよな?」
「ちょっとおかしい人かな?それか酔っ払ってるんかな?」
「急に走って来たりしたらどうする?」
「そんなん逃げるに決まってるやん。」
私達は誰に聞かれる訳でも無いのにヒソヒソ声で話しながらその女の人を見ていました。
そして、その女の人が2階位にまで降りて来た時に先程まで女の人が居た四階辺りに数名の人影が見えました。
見た所その人影は確証は無いですが、どうやらその女の人の家族では無いだろうかと私は思いました。
何故ならその女の人は鼻歌は歌っているけれども奇声を発している訳では無いので、近所の人は誰も表に出て来ていなかったからです。
その家族と思しき人達は、何故か四階で声を掛ける訳でも無く、その女の人を制止しようとする訳でも無くただただ傍観しているだけでした。
そうこうしている内に女の人は、階段を降り終えて私達の目の前の道路を挟んで向かい側に立ち相変わらず鼻歌を唄いながら踊っていました。
「うわぁ。こっち見てるで…て言うか手に持ってるんあれ包丁やないか?」
町田はそう言い少し腰を浮かしました。
私も流石にこれは洒落にならないなと思い身構えました。
そして、その女の人はふらふらと道路をこちらに渡って来ました。
「あ~れ~?に~ちゃんら~♪な~に~しと~ん~♪遊ぼうか~?」
女の人はそう言いながら近寄って来ます。
私達は、事の異常さに戸惑い動きが止まっていました。
そして、女の人をよく見ると靴は履いていなくて、髪は肩より下位、頭はぼさぼさ、歳は50代後半、そして、階段には手摺が付いていて良く見えなかったのですが、かなりワンピースの丈が短く、透け透けでした。
更によく見ると女の人は下着を付けていませんでした。
ワンピースの裾から覗いている陰毛に本当に吐き気を憶えました。
今思い出しても気持ち悪いです。
私は本当にこれはやばい、この人の家族は何をしているんだ?と、四階を見遣ると、何と家族らしき人は先程と何ら変わらない状態でこちらを見ていました。
私は何でこんな状態の家族を放って置けるのか全く理解が出来ませんでした。
その時、
「おい!磯野逃げるぞ!」
私は、町田の声を合図に逃げ出しました。
そして、100m程逃げたところで振り帰るとその女の人はふらふらと踊りながらなんと無くこちらに向かって来てはいましたが、追いかけて来ている訳では無かったので、暫く遠巻きに見ていると警察がやって来ました。
気が触れているのか、呆けているのか、全くわかりませんでしたが、何をしてくるか分からない人間は本当に恐ろしかったです。
そして何より、其れを放置してただ見ているだけの家族は本当に気味が悪かったです。
長々と失礼致しました。
怖い話投稿:ホラーテラー かつをさん
作者怖話