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中編5
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暗い海の底から

こんにちはかつをです。

今日は私が高校時代に海で体験したお話をします。

私が生まれ育った町は、家の後ろは山、道路を隔てて窓から見える景色は瀬戸内海という様な田舎で、コンビニなど中学生になる頃にやっと一軒出来たという様な所でした。

その日私は叔父の智明さんとその友達で漁師の遼君に誘われ、漁船で夜釣りに出かけました。

「今日は大潮じゃけぇ大漁かもしれんなぁ!」

「智明さんはいっつもそう言うて坊主じゃけぇなぁ!かつをも今日こそは釣らんといけんで!」

「分かっとるわ~!ぜってぇ大物釣り上げちゃるけぇの!」

と言ったものの、私はいつも小物ばかりで大物など釣り上げた事は有りませんでした。

「今日はぜってぇチヌ釣り上げちゃるで!なぁおっちゃん!」

「わしにはまぁ勝てまぁけど、まぁせいぜい頑張りや!」

「2人とも口だけは達者じゃなぁ。まぁもうすぐ着くけぇ大人しゅうしときや。」

港を出て30分もした頃、瀬戸内海に数ある無人島の一つに着き、其処から又10分程船で沖合いに行きました。

「この辺でええかな?

おいかつを、錨降ろすけぇ手伝えや。」

私は、遼君に手を貸し、錨を降ろしました。

とぷん…

静かに錨は暗い海に消えて行きました。

そして、私達は竿を取出し釣りを始めました。

今夜は新月…辺りは深い闇に包まれていました。

明かりと言えば、水平線にわずかに見える町の明かりと空に浮かぶ星、そして暗い水面に浮かぶ浮きの明かりのみでした。

私は少しの動きも見逃さないように、全神経を浮きの明かりに集中させます。

ピクッ!

来たぁ!

浮きの動きに合わせ竿を上げると今夜何度目かのベラがその身をくねらせ、水面から顔をのぞかせました。

「もう!又ベラじゃあ!」

「かつを~チヌはどうしたんならチヌは~。」

「分かっとるわ~。おっちゃんじゃってさっきから餌取りばっかりじゃがな。」

「もうえ~わ~、俺ちょっと寝るわ~。」

私はベラばかりで少し飽きて来たのと疲れたのとで休憩がてら少しの間寝る事にしました。

「おっちゃん。俺の竿に鈴つけとくけぇ鳴ったら起こしてや~。」

叔父は盲目なので音で魚が掛かった事を知らせる鈴を使ったり、俗に言う探りと言う釣方で魚を釣っていました。

「かつをはもうダウンか~。おめぇが寝とる間に、わしゃ大物釣っといちゃるわ!」

「わかった、わかった。じゃあおっちゃん頼むな~。」

そう言って私は揺れる甲板の上に横になりました。

どの位眠ったのでしょうか、私はどぼんと言う大きな音で目が覚めました。

「うわっ!何の音…?

ん?

あー!俺の竿がねぇ!」

「かつを!おめぇちゃんと竿固定して無かったんか?」

「しとったよ!でも、竿がねぇて事はめちゃめちゃ大物が掛かっとったんじゃねん?」

私は、いくら大物でも竿ごと持って行く奴はいないだろうと思い手元に有ったペンライトで水面を照らしました。

「あれぇ?何でや、竿がねぇ…」

私は船の前後左右ペンライトで照らし竿を探しましたが、ペンライト程度の明かりでは竿は見つかりませんでした。

「なぁなぁ、遼君ライト付けてや~。」

「あほぅ。魚が逃げるじゃろ。」

「頼むけぇ、ええがん。ちょっとだけ!お願い!」

「しょーがねぇなぁほんまに、ちょっとだけじゃで!」

そう言って遼君は集魚灯をつけてくれました。

辺りは強烈な明かりに照らされ私は目が眩みましたが、暫くすると目が慣れて来て水面を見渡しました。

「あっ!あそこっ!ちょっと光った!あれ、浮きじゃねん?」

「何処なぁ?ねぇがな。」

私は、波間に漂う赤い浮きの光を見た様な気がしたのですが、すぐに明かりは見え無くなりました。

「かつを、もうえぇじゃろ?消すで?」

「もうちょっとだけ!遼君頼むわ!」

私は遼君にそう頼み甲板の反対側に回り海面に目を凝らしました。

その時突然船が大きく揺れました。

「うわぁ!」

「なんじゃあ!?」

私は咄嗟に船の縁に手を掛け足に力を入れました。

辺りに船を揺らす様な大きな波は有りません。

その時、私は暗い海面を滑る大きな白い影を見ました。

「う、うわ!な、何かおる!何か白いんおるで!遼君あれ何なん!?」

「何処なぁ……う、うわぁ!こりゃあいけん!智明さん竿上げぇ!持って行かれるでぇ!」

「遼君どうしたんじゃ!?」

「ええけぇ早う竿上げぇ!かつをも錨は上げるで!早う此処から逃げるで!」

私は何が何やら分かりませんでしたが、遼君の慌て振りからこの状態がかなり危険だと言う事を察し錨を上げる為に船首に向かいました。

その時、又大きく船が揺れ私はバランスを崩し頭から海に落ちてしまいました。

「かつを!かつを!大丈夫か!?」

その時、船の上では叔父さんと遼君が大慌てで私を引き上げようと浮き輪を投げ入れたりしていましたが、私は真っ暗な海の中、上も下も分からない状態になりただただ恐怖しかありませんでした。

私はその時足に何かが触れるのを感じ更にパニックになり手足をめちゃくちゃに振り回しました。

今度はその手の先に何かが触れその手の方を見ると、白く大きな何かが幽かに通り過ぎるのが見えました。

私は肺の空気を思わず吐き出してしまい、大量に海水を飲み込み、もうダメだと思った瞬間浮き輪に手が届きました。

「かつを!こっちじゃあ!手ぇ出せぇ!」

私は無我夢中で浮き輪を掴み遼君と叔父さんに船の上に引き上げてもらいました。

「げぼぉ!げほっ!げほぉ!おぇ…」

「かつを!大丈夫か!?智明さん今日はこれで終いじゃ!かつをもええな!」

私は正直それ所ではありません。

海の中で見た物や、海の暗闇の恐怖と寒さでガタガタと震えていました。

そうしている内に遼君が船のエンジンをかけその場を離れました。

顔に当たる風の強さから相当のスピードが出ていると言う事が分かりました。

「遼君…あれ何じゃったん?」

「分からん…でも、昔っから漁師の間であの白い奴を見たら絶対漁や釣りは、しちゃあいけん言う話しは聞いた事が有って、わしも見たんは初めてじゃ。」

「鮫か何かなん?」

瀬戸内海には鮫がいる、私はその事を思い出し遼君に聞きました。

「それも分からん。ただ、かつをは運が良かったわ、わしの連れはあれのせいで足が無くなったけぇの。

その後、そいつは海には絶対近付かん様になった…海はきょうてぇ、わしらなんか分からん事ばっかりじゃ。舐めちゃあいけん…」

遼君は更に続けました。

「ただ、明日は大漁かもしれんのう。

昔からあれ見たら大漁になる、そう言われとる。

ようさん獲れたら見舞いがてらかつをにも鯛でもやるわ。」

私は海の恐ろしさを目の当たりにして、大人しく頷くしか出来ませんでした。

そして、翌日遼君は立派な鯛をうちの家に持って来て、

「やっぱり今日は大漁じゃったわ!かつを又夜釣り行こうな!」

遼君はホクホク顏で私に言いました。

「ぜってぇ行かん!」

私は本気で言いました。

あれから私はあんなに好きだった夜釣りには二度と行っていません。

以上長々とすみませんでした。

怖い話投稿:ホラーテラー かつをさん  

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