ある会社員が出張先のホテルに宿泊することになった。
そのホテルは内装が豪華な割に宿泊費が安く、男が勤めてる社員がこの辺りに出張となると、ほとんどの社員がこのホテルを利用する。
この男もその一人である。
しかし男の表情は暗く、豪華さを喜ぶ余裕などなかった。
男は出張してくる前に、同じ会社に勤めている先輩にある噂を聞いていたのだ。
その噂が男の表情を暗くさせていた。
噂とは、「あのホテルのある部屋に、幽霊が出るらしいぜ。」と言うものだった。
普通の人は頭の隅にいれておき、そしていつの間にか忘れそうなものだが、この男は違った。
この男は極端なほど怖がりだった。
先輩もこの男が怖がりなことを知っていた。なのでからかうつもりで噂を教えたのだが、それが男には効果絶大だったらしい。
男は「幽霊なんて気にしてたら仕事なんて出来ない!」と自分自身に言い聞かせていた。
夜になり、男が布団の中で寝ていると、
ドンドンドン!ドンドンドン!
ドアを叩く音で目が覚めた男は時計を見て時刻を確認した。
時刻は午前2時。
男は気味悪く思いながら、ルームスコープを覗いた。
誰も居ない…………
だがドアを叩く音は強くなるばかり。
ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!
男は腰を抜かし、ガクガク震える腕で自分の体を引きずって布団に戻った。
男は布団をしっかりと覆い被り、気絶した。
翌朝、男は昨日の事を思いだし、そそくさとホテルを出た。
後日、先輩にその事を話すと、
「ヘエ~。ホントに出たんだ。実はな、昔あのホテル火事になってさ、それで逃げ遅れた人が数人いたんだって。んでその人達が化けて出るんだと。」
「まじすか!?いや~開けなくてよかった~。」
「何で?だって逃げようとしてたんだから幽霊は内側だろうが。」
作者1jz