その日、私は自宅に向かって車を走らせていました。
単身赴任を始めて5年、やっと休暇が取れて久しぶりに帰る我が家です。
車は人気のない山道に差し掛かりました。
カーブを曲ろうとした時に声が聞こえたんです。
「危ないよ…」
その声に私は車を止めました。
ふとカーブの先を見ると、大きな岩が道に落ちているではないですか。
あの声が教えてくれなければ、きっと私は今ごろ…。
私は声のした方向へ手を合わせて感謝しました。
無事に我が家へ辿り着いた私は、家族にこの不思議な話を聞かせました。
その時になって聞こえてきたんです。
冷たく低い声で
「死ねばよかったのに。」
それは紛れもなく、女房の声でした。
投稿者:アララギ
作者アララギ