「ったく、今年は暖冬だって言ったはヤツ誰だよ。」
師走の風が私の老体を刻むように吹き抜ける。
こんな人通りの少ない通りに『易』の看板を立てていても客など来るわけがない。
本当に占いの才能があるのであれば、儲かる場所ぐらい分かるだろうにと言われそうだ。
一人で苦笑していると、いつのまにか目の前に赤いランドセルを背負った少女が立っていた。
日も落ちてだいぶ経つ。
「お嬢ちゃん、早く帰らないとママが心配するよ。」
少女は黙って手を差し出す。
「お金はサービスするから、占いが終わったらすぐ帰るんだよ。」
黙って頷く少女。
しばらく手相を読む。
「大丈夫。お嬢ちゃんの願いは絶対叶うからね。」
少女はお辞儀をすると、軽い足取りで去っていった。
私は後ろ姿を見送りながら、胸に込み上げるものを感じていた。
少女の手には生命線が無かったのだ…。
最近、この近辺で連続少女殺人事件が起きていた。
手口からして精神異常者の犯行として警察は手がかりを追っているが、いまだ犯人は捕まっていない。
おそらく少女も成仏できていないのだろう。
ふと机を見ると、服のボタンが置いてある。
あの子の忘れ物?
少女を追おうと椅子を立った時、お客さんが来た。
ロングコートを着たその男はどことなく落ち着きがない。
何か過去がある男だな。
この仕事を長年やっていると人並み外れた洞察力が身に付いているものだ。
千円札を乱暴に置き、手を出すと男は言った。
『ほんとに当たるの?』
じっと男を見据える。
「お客さん、この先ずっと暗闇で過ごすことになるだろうね。」
『ハァ?』
「罪を償わなければならないってことだよ。」
『クソジジイ!何を言ってんだ!』
「このボタンは君のコートのものだね?」
男は手を振りほどこうとするが、私は離さない。
『離せ!コノヤロウ!!』
男はもう片方の手で懐からナイフを取り出した。
乾いた血が付いている!
とっさに手を離し机ごと蹴り上げると、男は倒れ込んだ。
『テメェ!ぶっ殺す!』
声を張り上げる男に、私は拳銃を突きつけた…
私は、男が来た時から後ろでずっと様子を見ていた少女に語りかけた。
「願いは叶ったから、これでうちに帰れるね。」
少女はニコッと笑うと、闇の中に消えていった。
この歳ではたった1ヶ月の張り込みもこたえるな。
問題は、手がかりが幽霊だったってことを署長が信じてくれるかってことだ。
パトカーのサイレンの鳴り響く冬空を見上げながら、私は仲間の到着を待った。
怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん
作者怖話